コラム

2016年の光と影

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2016年12月号掲載

1.はじめに

2016年も残りわずかとなった。これほど障害者に関するニュースがマスコミを賑わせた年は近年なかったのではないかと感じる。今回は、世間の耳目を集めた障害者関連のニュースをランキング形式で紹介し、今年1年を振り返ってみたい。

以下では、インターネットの検索エンジン「Google」でキーワードを検索し、ヒットしたホームページの数にしたがってランキングをつけた。これは、当然精緻な分析ではないが、世間の注目度の高さについて大づかみの傾向が分かる方法である。

  • 見出しの後に検索に使用したキーワードとヒットしたホームページの数を記載した(数字は11月18日現在)。

2.今年の5大ニュース

第5位 静岡県立大の石川教授が国連障害者権利委員に当選

検索語:「国連 障害者権利委員 石川 教授」
検索ヒット数:8万2400件

6月14日、ニューヨークの国連本部において、各国の障害者施策を審査する国連障害者権利委員の選挙が行われ、静岡県立大学教授の石川准氏(全盲)が当選した。これは、日本人初の快挙である。石川教授は内閣府の障害者政策委員会の委員長も兼務しており、国際レベルの人権感覚を日本にもフィードバックし、国内政策をさらに推し進めてくれるものと大きな期待が寄せられている。

第4位 視覚障害者のホーム転落事故続く

検索語:「視覚障害者 ホーム 転落」
検索ヒット数:17万4000件

8月15日には東京メトロ銀座線青山一丁目駅で、10月16日には近鉄大阪線河内国分駅で視覚障害者がホームから転落し、電車にはねられて死亡する事故が発生した。これまでにも同様の事故は繰り返されてきたが、短期間に連続して発生した悲劇に、ようやく国交省や各鉄道会社も対策に重い腰を上げつつある。今年を、日本の駅の安全性を考える元年にしなければならない。

第3位 障害者差別解消法が施行された

検索語:「障害者差別解消法 施行」
検索ヒット数:21万6000件

4月1日、行政機関や民間事業者に対し、障害者を不当に差別して取り扱うことを禁止し、障害者の求めに応じて合理的配慮を提供することを義務づけた障害者差別解消法が施行された。行政機関にとどまらず、民間同士の関係においても差別の禁止と合理的配慮の提供義務が定められたことには、極めて大きな意味がある。同法の施行は、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重しあう共生社会の実現に向けた大きな第一歩といえる。

第2位 相模原障害者施設殺傷事件

検索語:「相模原 障害者 施設 殺傷」
検索ヒット数:190万件

7月26日、神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で、同施設の元職員が入所者19人を殺害する平成以降最悪の殺人事件が起こった。この事件は、山奥の大規模障害者施設の問題、社会に根深く残る差別意識等、これまで日本社会が「見て見ぬふり」をしてきた様々な問題を明るみに出した。19人の死を改めて思い、共生社会について考える契機にしなければならない。

第1位 リオパラリンピック開催される

検索語:「リオパラリンピック」
検索ヒット数:1050万件

本年9月7日から18日まで、ブラジルのリオデジャネイロでパラリンピック夏季大会が開催された。日本人選手の活躍はめざましく、金メダルこそなかったものの、過去最高となるメダル24個を獲得した。テレビやラジオもゴールデンタイムに連日その熱戦を報道した。東京パラリンピックへの大きな弾みとなる大会だったと言える。

3.共生社会に向けての「ポジティブスイッチ」

このようなニュースを見て感じることは、今年は障害者を取り巻く光と影がくっきり出た1年だったなということである。

障害者差別解消法をはじめとする法制度の整備が進み、多くのパラアスリートや石川教授の活躍が光った一方、社会の中にまだ残る「障害者は無価値である」という差別意識が津久井やまゆり園の事件によってむき出しになり、駅ホームでの転落事故は、まさに我々の足下には命の危険が大きな口を広げていることを改めて見せつけた。障害者も共に活躍する共生社会の理念は一部で輝きはじめたが、社会の大部分はまだほとんど変わらず、依然として暗闇に包まれているのかもしれない。

全てのニュースを分析するには紙幅が足りない。そのため、少し目先を転じて、どうすればこのような現実を変えていけるのか、暗闇に光を当てて影を追い払えるのかを考えてみたい。私は、今回調べたインターネットの検索ヒット数にそのヒントを見た思いがする。

5位から2位までの検索ヒット数を合計すると約240万件、一方、1位のリオパラリンピックは、単独でその数の4倍以上の1050万件をたたき出している。

これは、障害者の共生の問題は、「人権や人道的な正しさ」のアプローチよりも、「障害者って(実は意外と)魅力的である」というアプローチの方が、より多くの人の関心を捉え、心にすっと入っていくものだということを示しているのかもしれない。もちろん、権利や正しさを求めそれを訴えかけること、それが基本にあることは疑いの余地がない。しかし、より広い範囲の、とりわけ障害者に無関心でいる人の心を捉えるためには、それに加えて、「障害の魅力」をアピールして障害者に関心を持ってもらうことも重要なのではないだろうか。

リオパラリンピックの閉会式、パラリンピック旗を次の開催都市である東京に引き継ぐ「フラッグ・ハンドオーバー・セレモニー」の中で印象的なメッセージがあった。――1964年の東京パラリンピックが1つ目の「ポジティブスイッチ」であった。これにより、多くの人が障害者の可能性に気づいた。そして、2020年の「ポジティブスイッチ」は、障害をより魅力的に変えようというスイッチだ――というのだ。

障害の魅力、それはおそらく誰かが探してくれるものではない。障害を持つ我々自身が発見し、磨いていかなければならないものだ。4年後を展望しつつ、まずは自分の心の「聖火」に灯を点し、自分自身の「ポジティブスイッチ」を押してみることからはじめたい。