コラム

第23回 差別解消法で盲導犬ユーザーの生活はこう変わる

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2017年2月号掲載

1.はじめに

ある盲導犬ユーザーの読者から、障害者差別解消法(以下、差別解消法)と身体障害者補助犬法(以下、補助犬法)の関係について解説してほしいというご意見をいただいた。

皆さんもご存じのとおり、2002年(平成14年)、補助犬法が施行された。同法では、公共交通機関や不特定多数の者が利用する施設においては、補助犬の同伴を拒んではならないと定められている。しかし、現状、社会生活の様々な場面で盲導犬ユーザーに対する差別は後を絶たない。そこで、昨年4月から新しく施行された差別解消法によって、このような状態を打開することができないかというのがリクエストの理由だった。確かにこれまで、2つの法律の関係はあまり正面から議論されてこなかった。そこで、本欄を借りて、私なりの解釈を試みたい。

2.盲導犬の利用拒否は「不当な差別的取り扱い」か

差別解消法では、行政機関と民間事業者に対して、障害者に対する障害を理由とする「不当な差別的取り扱い」を禁止している。飲食店などによる盲導犬ユーザーに対する入店拒否は、そのユーザー自身の視覚障害というよりも、連れている盲導犬に着目した差別であることから、障害を理由とする「不当な差別的取り扱い」といえるのかは、一応検討しておく必要がある。

法律上、このことについての明文の規定はおかれていないが、法の解釈を示した政府のガイドラインのうち、飲食店等を対象に示された、「衛生分野における事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する対応指針」には、「不当な差別的取扱いと考えられる例」として、「身体障害者補助犬の同伴を拒否すること」が挙げられている。

また、差別解消法とその趣旨を同じくする障害者雇用促進法のガイドラインには、禁止される差別には、「車いす、補助犬その他の支援器具等の利用、介助者の付添い等の社会的不利を補う手段の利用等を理由とする不当な不利益取扱いを含む」と記載されている。すなわち、これらのガイドラインによる解釈によれば、障害者差別解消法が禁止する「不当な差別的取り扱い」には、その人の障害を理由とする差別のみならず、その障害を補うための補助手段に着目した差別をも含むといえそうである。よって、盲導犬を利用することに着目した差別は、法が禁止している「不当な差別的取扱い」になると考えられる。

3.あらゆる事業者に求められる盲導犬の受け入れ

補助犬法では、公共施設や公共住宅、不特定多数の人が利用する施設においては、盲導犬の受け入れを法的義務とする一方、民間住宅や小規模の職場等では、受け入れは努力義務とされ、それ以外の事業に関しては何らの定めもおかれていない。

そのため、例えば、旅行代理店が企画したバスツアーに、盲導犬を同伴して参加したいと申し込んだら断られてしまった、認定保育園のような小さな保育園で、盲導犬を同伴して園児を迎えにくるのはやめて欲しいと断られてしまったなどの場合に、補助犬法では対処できなかった。また、民間住宅や小規模の事業所では、盲導犬の受け入れは「努力義務だから」という理由で、消極的な対応しか期待できなかった。

しかし、差別解消法では業種や規模の大小を問わず、あらゆる行政機関と民間事業者に対し、障害を理由とする「不当な差別的取り扱い」を禁止している。これにより、これまで補助犬法の規制対象ではなかった事業や、努力義務とされていた事業についても、盲導犬の受け入れは法的な義務となったといえる。

4.「正当な理由」の視点

ここで忘れてはいけないのが、事業者等が障害者を区別して扱うことが認められる「正当な理由」という例外の存在である。

事業者等は、原則的に障害者に対しサービスの利用拒否や時間帯、場所などの制限を行うことは許されないが、例外的に、「正当な理由」がある場合にはこれが許されるとされている。

盲導犬に関しては、身体障害者補助犬法において、ユーザーに対して「その身体障害者補助犬が他人に迷惑を及ぼすことがないようその行動を十分管理しなければならない」(13条)、「その身体障害者補助犬について、体を清潔に保つとともに、予防接種及び検診を受けさせることにより、公衆衛生上の危害を生じさせないよう努めなければならない」(22条)と定められている。そのため、ユーザーがこの法的義務に反し、適切に盲導犬をコントロールしていない、また、衛生管理を行っていない場合には、入店拒否などの「正当な理由」となる場合がある。

もっとも、ここでいう盲導犬のコントロールや衛生管理は、盲導犬の訓練において一般に指導されているレベルをいうと考えられる。逆に言えば、ユーザーが一般的な注意を守っていれば、飲食店やホテルが「部屋が汚れる」とか、「犬アレルギーの人がいたら困る」といった理由で盲導犬の受け入れを拒否することは、原則的に「正当な理由」とはならないと考える。

5.紛争解決の仕組みについて

これまで、盲導犬の受け入れ拒否があっても、事業者には何らのペナルティーが科せられないこともあって、多くの盲導犬ユーザーは、補助犬法の実効性に疑問を感じてきた。

法の実効性確保の仕組みがないことは、差別解消法においても1つの課題である。しかし、同法を受けて各地の自治体で制定が進んでいる障害者差別禁止条例のほとんどでは、中立的な機関による紛争解決のあっせんや、悪質な場合の事業者名の公表といった、より積極的な問題解決の仕組みが作られている。

決して紛争を大きくすることばかりが望ましいとは思わないが、どんな仕組みも使わなければ次第に忘れ去られてしまうし、1つ1つのケースへの対応が、ひいては社会全体の変化に繋がっていく。差別を受けた場合には、まず自治体の窓口などに相談し、場合により裁判に訴えることも必要なのかもしれない。

最初は様々な摩擦があるかもしれないが、間違いなくいえるのは、補助犬法に加えて差別解消法ができたことは、盲導犬ユーザーのさらなる社会進出の強力な追い風だということである。

  • 追記:本稿執筆中に、JR蕨駅の盲導犬ユーザーの死亡事故が報道された。謹んでご冥福をお祈りいたします。