コラム

第25回 迫りくる「大雇止め時代」

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2017年4月号掲載

1.はじめに

先日、日本視覚障害ヘルスキーパー協会という団体の方とお話しする機会があった。この団体は、民間企業のマッサージルームや保養所で、従業員にマッサージを施す仕事に就いている視覚障害者の組織であり、現在、会員は90名ほどいるそうである。

驚いたのは、協会の会員のうち、およそ9割が契約社員やアルバイトなど、いわゆる非正規雇用の従業員だということだ。

非正規雇用が増えているというのは視覚障害者に限った問題ではない。日本企業では、バブル崩壊後、長引く景気低迷を受け、一般に正社員よりも給料が安く、人員削減などが容易な契約社員やアルバイトなどの非正規雇用の社員が増えてきた。現在では、労働者全体の約4割が非正規雇用だというデータもある。それにしても、ヘルスキーパー協会の会員の9割が非正規雇用とはすさまじい。従業員の非正規化の現象が、民間企業で働く視覚障害者にはひときわ顕著に出ているのだ。

非正規雇用の従業員は、6カ月、1年など、一定の期間ごとに雇用契約を結んでいる。このような期間の定めのある雇用形態を「有期雇用」という。有期雇用の場合、期間が満了すると、新たな契約を結んで働き続けられる場合もあるが、契約が更新されず、その時点で会社を辞めさせられるという場合もある。このように、有期雇用の労働者は、正社員に比べて不安定な立場に置かれてしまうことになる。

ところで、有期雇用の従業員に対し、期間満了で契約を終了させるという企業の判断を「雇止め」というが、今年度以降、「大雇止め時代」ともいうべき、有期雇用の従業員にとっての受難の時代が来ると、一部でささやかれていることをご存じだろうか。

2.勤続5年の壁

労働契約法の改正により、平成25年4月1日以降に新たに締結されたり更新された有期雇用契約の通算期間が5年を超えた場合、労働者は雇い主に対して、自分を有期雇用から期限の定めのない従業員、つまり定年までその会社で働き続けることのできる従業員にするよう請求できることになった(18条1項)。

このような、有期雇用から期限の定めのない雇用への転換を請求する労働者の権利を、「無期転換権」という。

無期転換権を行使すれば、不安定な有期雇用の状態にあった労働者も、その後は定年まで雇止めの心配をしなくてもよくなるので、労働者の生活の安定につながるというわけだ。

上に述べたように、労働者が無期転換権を取得するためには、原則的に通算して5年間同じ会社に勤め続ける必要がある。そして、期間は、平成25年4月1日以降に新たに契約が結ばれた日から数え始めるので、法施行の5年後である平成30年4月を過ぎると、多くの有期雇用の従業員が、順次、無期転換権を取得していくことになる。

しかし、企業側では、せっかくいつでも人員調整ができるように6カ月、1年など期間を区切って従業員を雇っているのに、その従業員が期限の定めのない社員になったら、定年まで解雇できず、柔軟な人員調整ができなくなってしまって困ると考えている場合が少なくない。そのため、一部の企業などで、長期間にわたって勤務してきた有期雇用の従業員に対し、無期転換権を取得する前に雇止めを通告するという動きが起こりつつある。「勤続5年の壁」である。

3.有期雇用の労働者は、自分の身をどうやって守ればよいのか?

無期転換権は、何とか5年の壁を超えることができた有期雇用の従業員にとっては、雇止めの怯えから解放され、人生を大きく変えることのできる「ゴールデンチケット」といえるかもしれない。

その「ゴールデンチケット」を手に入れるため、今、有期雇用で働いている視覚障害者は十分な知識を持っておく必要がある。

まずは、今後、雇用契約を更新する際、契約書をきちんとチェックする必要がある。最近は、有期雇用の契約書の中に、「5年を超えて契約更新を行わない」とか、「平成30年3月31日以降の契約更新を行わない」などの文言が入れられていることがある。もし、皆さんの契約書にもこれが入っていたら、その意味を質問し、できればその条項を外してほしいと申し出るべきである。何の文句も言わずに契約書にサインしてしまった場合、5年の壁を目前に雇止めをされたとしても、一切対抗できなくなる可能性が高い。結果的に更新制限の文言を外してもらうことができなかったとしても、異議を述べ、そのことを、きちんと録音かメモなどに残しておくべきである。それが後々、雇止めの通告を受けた際に生きてくる可能性がある。

また、契約期間が満了し雇止めを通告されたとしても、すぐに諦めるのではなく、不満があれば、最寄りの労働基準監督署や弁護士に、一度相談してみることをお勧めしたい。というのは、いくら有期雇用だといっても、一定の場合には、企業の雇止めが制限される場合があるからである。例えば、契約更新手続きは形式だけで、実質的には期間の定めのない雇用と同視できるような状態になっていたとか、採用時、「1年更新というのはあくまで形式ですので、できるだけ長期間働いてください」と説明されていたなど、契約更新について合理的期待がある場合には、企業の側は、契約期間が満了した際にも、自由に雇止めを行うことはできず、一般常識に照らして、だれが見ても雇止めをしても仕方ないと認められるような客観的な理由がある場合でなければ雇止めができないとされている(19条)。

このように、労働者もきちんと知識を身に付けて自分の身は自分で守ることが大切である。また、もちろん、企業としても、良い人材にはできるだけ長く働いてもらいたいと考えているので、どのようにすれば勤め先に最大限の貢献ができるかを考えることも忘れてはならないだろう。

「大雇止め時代」をいかにサバイブしていくか、これは視覚障害者のみならず、すべての労働者がともに考えていかなければならない問題である。