コラム

第2回 改正障害者雇用促進法のガイドラインについて 2

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2015年5月号掲載

1.はじめに

私は、月に1度、日本盲人会連合(日盲連)で無料法律相談を担当しているのだが、以前、そこにこんな相談が持ち込まれたことがある。

就職試験に際して、会社の人事担当者に、試験問題を拡大文字にし、試験時間を延長してほしいと申し出た。すると、「決められた時間内に普通文字を処理することを含めて能力を判定するので、あなたにだけ特別な配慮は行なえない」と言われてしまった。やはり就職試験では会社側に配慮を求めることはできないのかという弱視の男性からの相談だ。

この相談のように、現在、日本の社会では、名目上の「公平」や「平等」のために、就労の現場で、企業などが障害者への配慮を行なわないことが多く見られる。来年4月に施行される改正雇用促進法は、かかる現状を打開する強力なインパクトとなることが期待される。今月は、同法の運用指針である障害を持つ労働者への合理的配慮のガイドラインについて書いてみたい。

2.合理的配慮のガイドラインの内容

(1) 基本的な考え方

このガイドラインの冒頭には、「基本的な考え方」として3つの事項が示されている。それを要約すれば次のようになる。

  1. 全ての事業主は、労働者の募集、採用に際して、障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない。
  2. 全ての事業主は、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない。
  3. ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。

つまり、会社の大小にかかわらず、全ての事業主は、労働者の募集、採用の段階から始まり、実際の仕事の現場に至るまで、あらゆる場面において、障害者に対し、障害の状態に応じた合理的配慮を行なわなければならないことが定められたのである。

(2) 視覚障害に関する合理的配慮の具体例

そして、このガイドラインには「別表」として、障害種別ごとに、事業主が行なう合理的配慮の具体例が紹介されている。「別表」で示されている視覚障害に関する合理的配慮の例は次のとおりである。

<募集及び採用時の合理的配慮の例>

  • 募集内容について、音声等で提供すること。
  • 採用試験について、点字や音声等による実施や、試験時間の延長を行うこと。

<仕事の現場での合理的配慮の例>

  • 業務指導や相談に関し、担当者を定めること。
  • 拡大文字、音声ソフト等の活用により業務が遂行できるようにすること。
  • 出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること。
  • 職場内の机等の配置、危険箇所を事前に確認すること。
  • 移動の支障となる物を通路に置かない、机の配置や打合せ場所を工夫する等により職場内での移動の負担を軽減すること。
  • 本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること。

3.本ガイドラインの課題

ガイドライン策定に向けての検討段階で、経営者団体から相当激しい抵抗があったことを漏れ聞いているが、上に紹介した具体的な合理的配慮の例を読み、少し物足りなく思うのは私だけだろうか。「移動の支障になる物を通路に置かない」だなんて、まるで小学校の「今月の目標」みたいである。障害者が活躍できる職場を作るためにはもっと大切なことがあるはずだ。

私が、問題だと考えるのは次の三点である。

第一は、このガイドラインには、障害者の仕事への人的サポートについての記載がほとんどないことだ。視覚障害者が健常者と同等に能力を発揮するためには職場介助者などの人的援助が不可欠であり、合理的配慮の例にこの点が盛り込まれていないことは極めて大きな問題である。

第二は、中途失明者の特性に配慮した合理的配慮の記述がないことだ。キャリアの半ばで失明した者は、障害を受け入れ、仕事に復帰するための様々な訓練を受けることに相当な長期間が必要である。これに配慮したリハビリ休暇やリハビリ休職などの記述が一切ないことは大きな問題だといわざるを得ない。

第三は、通勤支援についての記述がないことだ。障害者総合支援法に基づいて派遣されるガイドヘルパーは通勤に使用することが認められていないため、視覚障害者団体などからは、一定範囲で、事業主側の費用負担で通勤支援を行なう制度が必要であるという意見が多く出されている。しかし、この点についての記述も全くないのである。

4.結び

上に述べたように、まだまだ課題は多く残されているが、このガイドラインは、日本の障害者の歴史において、1つの大きなマイルストーンである。

これまで、障害者に対する配慮は、「障害者にやさしい」などといった言葉に象徴されるように、恩恵や博愛の文脈の中で語られることが多かったように思われる。しかし、改正雇用促進法では、障害者に対して配慮を行なうことが全ての事業主の法律的な義務だとされた。これは、障害者の側から見れば、従前、恩恵の客体であった障害者が、合理的配慮を求める権利の主体となったことを意味する。

法律業界の格言に「権利の上に眠る者は保護せず」というものがある。私たちも、そろそろ、改正雇用促進法の施行に向けて目を覚ます時刻である。