コラム

第33回 選挙公報のアクセシビリティを考える

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2017年12月号掲載

1.はじめに

10月22日、衆議院総選挙が実施されたが、読者の皆さんは、世界で初めての国政選挙における点字投票は、およそ90年前、ここ日本で行われたことをご存じだっただろうか。

1925年、衆議院選挙法改正により点字投票が認められ、1928年の衆議院選挙において、国政選挙での世界初の点字投票が実施された。そして、実際に5428票の点字投票があった。ちなみに、奇しくも、その選挙において最高得票で当選した高木正年氏は視覚障害者であったとのことである(なお、地方議会も含めると、1926年の浜松市議会議員選挙において、すでに点字投票が実施されているようである)。私たちの先人のすさまじいまでの努力に改めて敬服する思いである。

しかし、それからほぼ1世紀を経た今でも、投票行動の前提となる選挙公報の情報保障には課題が残っている。3点指摘したい。①未だに、点字や音声による選挙情報の提供について、一切の法的な裏付けがないということ。②点字出版所や点字図書館などの視覚障害者情報提供施設、視覚障害者団体が点字などの媒体で選挙情報を作成する場合、選管から電子データの提供を受けることができず、すべてを手入力するという膨大な作業を強いられていること。③インターネット上に掲載された選挙公報が、視覚障害者には全く読めない画像のみのPDFファイルであるということである。

2.情報保障に関する法的裏付けの必要性

現在、国政選挙では、日盲連・日盲社協・全国盲学校長会で構成する日本盲人福祉委員会が立ち上げた視覚障害者選挙情報支援プロジェクトが中心となり、全国の点字出版所等が連携して選挙公報の内容を点字、音声、拡大文字にした「選挙のお知らせ」を作成している。

しかし、この「選挙のお知らせ」には、一切の法的裏付けはない。これは、選挙公報ではなく、民間の点字出版施設等が自ら出版している雑誌の号外として、選挙管理委員会が買い上げて配布するものであり、内容の正確性等の責任は、すべて作成した点字出版施設等が負っている。選挙啓発のための情報資料としての位置付けである。

法的な裏付けがなくても、現に点字等の「お知らせ」が作成されているのだからいいのではないかと思われる方がいるかもしれないが、それは大きな誤解である。法律に定められていないということは、各選管は、たとえば、「今年は予算がないから」とか「点字を作っても読む人が少ないから」などの理由で、その発行の有無や分量を自由に決定できてしまうということになるのである。

選挙公報というのは、国民の選挙権を実質的に保障し、また知る権利にもかかわる重要なものである以上、やはり、きちんとした法的な裏付けの下、国の責任において、それぞれの国民が必要とする媒体で発行されるべきである。仮に、墨字版と完全に同じ内容でなければ「選挙公報」という名称を使えないのだとしても、少なくとも、選管には、点字等の媒体で、候補者等の氏名、経歴、政見等を記載した資料を提供する義務があることが法的に位置付けられる必要があるのではないだろうか。

3.選挙公報の内容を電子データで提供することの可能性

皆さんもご存じの通り、ある資料を点訳する場合、文字情報の電子データがあれば、自動点訳ソフトを活用することにより迅速な作業が可能になる。また、電子データがあれば、拡大文字にする作業も極めて容易となる。

しかし、現在、国政選挙の選挙公報に掲載を希望する候補者等は、選管に対し、掲載文を「文書」で申請しなければならないとされているため(公選法168条)、選管は選挙公報の電子データを保有していない。そのため、点字出版施設等が選挙公報の内容を点訳したり、拡大文字にしたりする場合にも、選管から電子データの提供を受けることは原理的に不可能であり、すべてを手入力しなければならないという状態である。

今日、手書きで選挙公報の原稿を作成する候補者は少数であると思われるため、公選法を改正し、選挙公報に掲載を希望する候補者等は、掲載文を電子データで提出することとし、選管は、必要に応じ、これを点字出版施設等に提供できるような仕組みが作られるべきなのではないか。これによって、選挙情報の点字版や拡大文字版の作成が効率化できるはずである。

ところで、掲載文を電子データで提出するとした場合、候補者らの意図に反した編集や改ざんが行われる恐れが生じるのではないかと心配する向きもあろうが、これについては、候補者らに、掲載文を文字データの入ったPDFファイルの形で提出させることにすれば解決できると思われる。このようにすれば、電子データの点訳・拡大文字への活用可能性と、編集・改ざん防止の要請を両立できるのではないか。

4.ネット上の選挙公報のアクセシビリティについて

現在、各地の選管はインターネットで選挙公報を公開している。しかし、前述のとおり、選管は掲載文の電子データを保有していないため、ネット上に公開されるのは、紙の選挙公報をスキャナで取り込んだ画像のみのPDFファイルであり、視覚障害者はスクリーンリーダーを用いても読むことができない。

この点についても、候補者らに対し、選挙公報への掲載文を文字データの入ったPDFファイルで提出することを義務付けることで一定の解決が可能である。候補者らが提出したPDFファイルを、選管がそのままインターネットに公開するという仕組みであれば、候補者らの意図しない編集や改ざんも防止できるし、視覚障害者はスクリーンリーダーで選挙公報の内容を読むことができるようになるのではないか。

5.終わりに

このように、投票行動の前提となる選挙公報については、まだまだ改善の余地があり、それは、法的にも技術的にも必ずしも不可能なものではない。

私たちにはまだまだやるべきこと、やれることが多く残されている。点字投票を実現した先人たちの思いを引き継ぎ、今ある社会を少しでもよいものにしていきたい、そんな思いを新たにし本年のエッセイを結びたい。

今年も1年間ありがとうございました。