コラム

第35回 「透明な壁の刑務所」と同行援護

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2018年2月号掲載

1.はじめに

盲ろうで東京大学先端科学技術研究センター教授の福島智氏は、「障害者は、いわば無実の罪で『目に見えない透明な壁の刑務所』に収監された存在だ」という。障害という本人に責任のない理由で、行動とコミュニケーションが制限されている障害者の苦悩を表す鋭い警句である。

多くの視覚障害者にとり、情報の取得を助け、行動の自由を与えてくれる同行援護のガイドヘルパーは、この「透明な壁の刑務所」から救い出してくれる救世主のごとき存在だといっても言い過ぎではないだろう。

しかし、現在は、その救世主はサービス支給時間という時間制限付きだ。同行援護では、それぞれの利用者ごとに支給時間の枠が設定され、かかる制限のために、日常生活に必要な外出を控えたり、あるいは、行きたい旅行を我慢せざるを得ない視覚障害者も少なくない。

2.同行援護の支給時間を争う日本初の裁判

現在、大阪地方裁判所で、この時間制限の壁を崩すために戦っている男性がいる。大阪府豊中市在住の上鍛冶公博(うえかじ きみひろ)さんだ。

上鍛冶さんはほぼ全盲で、2015年、同行援護を使って好きなアーティストの海外公演を聞きに行きたいと、豊中市に対し月75時間の同行援護の利用を申請したところ、同市は、50時間を超える利用を認めなかった。上鍛冶さんはこれを不服として、同市に対し、月75時間の同行援護の利用を認めるよう裁判を起こしたのである。

上鍛冶さんは次のように主張している。

同市には、「豊中市障害福祉居宅介護サービス等の支給に関するガイドライン」という内規があり、それにより同行援護の利用を原則月50時間に制限しているが、利用時間にこのような制限を設けることは、障害者が自立した日常生活または社会生活を営めるよう必要な自立支援給付を行うとした障害者総合支援法の趣旨等に反する。

そして、このガイドラインに基づいて、申請した月75時間の同行援護の利用を認めなかったことは、行政裁量を逸脱する違法なものである。

また、視覚障害者の外出時間は、旅行などの非日常的な外出がある場合、月によってまちまちとなる。にもかかわらず、同行援護の利用時間を、年間を通じて毎月同じ時間数とする現行の制度は不当である。例えば、年間600時間などと、1年を単位として、サービスの利用可能時間の大枠のみを決定する方式とすべきである。

筆者の調べた限り、この裁判は、同行援護の支給時間を争う日本初の裁判である。そのため、この結果は、おそらく、全国的に今後の同行援護の支給基準や支給決定のプロセスに大きな影響を与える。上鍛冶さんはあえて弁護士を立てず、自分一人で裁判を戦っている(本人訴訟という)が、今後、裁判の成り行きには、視覚障害者全体として注目していかなければならない。

3.同行援護の支給時間を増やすために知っておきたいこと

ところで、現在認められている同行援護の支給時間では自分の望む生活を送ることができない場合、視覚障害者は、裁判を起こすまでいかなくとも何かできることはないのだろうか。

まずは、同行援護の支給時間を決定する行政の内部基準が2階建て構造になっていることを理解する必要がある。

基本となるのは、同行援護を使うことができない通勤や経済的活動、通年かつ長期にわたる活動、社会通念上適当ではない活動を除き、無条件で同行援護の利用が認められる1階部分の支給基準である。多くの市区町村では、1か月30時間から50時間程度に設定されている。そして、自治体の担当者は、これがサービス支給時間の上限であるかのように説明することも少なくない。

しかし、実は、基準には「非定型」として2階部分がある。例えば、生命の危機にかかわることや生活が成り立たなくなるなどの生活を保つために必要な場合、ないし、市区町村の福祉向上の活動に参加するなど公の役務に当たっている場合等に、特別に認められる支給時間の加算基準である(平成19年3月23日障発第0323002号、平成25年3月29日障発0329第15号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知を参照)。

なぜこのような2階建ての基準になっているかというと、同行援護等のサービスの費用に関し、国が負担する金額には上限が設けられているからである。原則的に、同行援護などの費用のうち、その半分が国、4分の1が都道府県、残り4分の1が市区町村と利用者の自己負担分で賄われる。多くの市区町村では、事実上、国庫負担基準の範囲内に上記の1階部分の基準を合わせており、それを超えるサービス支給を制限するという取り扱いが行われている。

そして、自治体が設けている1階部分の支給基準の上限までは、通常、簡単に申請が認められる。しかし、これを超えて、2階部分にまで支給時間を延ばすためには、かなりの労力と粘り強い交渉が必要になる。具体的には、サービス利用計画案を提出する際に、申請書類に、1階部分の通常の支給時間以上に同行援護を利用する必要がある理由を、説得的に記載することが求められる。そして、現状では、2階部分の支給時間を獲得するためには、「余暇や散歩のために1階部分の支給時間では足りない」という理由ではだめで、自分の生活を維持するため、ないしは公的な活動を行うために長時間の同行援護の利用が不可欠といったような特別の事情が必要だといわれている。

このようなサービス利用計画案の作成や行政との交渉には、信頼のおける相談支援事業所の相談員の協力が欠かせない。また、場合によっては、弁護士の援助も効果的である。中でも、このような問題に精通した弁護士が作る「介護保障を考える弁護士と障害者の会全国ネット」(http://kaigohosho.info/)という団体は、非常に頼りになる存在である。

4.終わりに

本来ならば、生活の維持や公的活動などに限定されず、すべての視覚障害者が自ら望むときに望むだけ同行援護を利用できる制度が理想である。しかし、そのような制度は一朝一夕に実現するものではない。大切なのは、個々の視覚障害者が、自分にとっての同行援護の必要時間を毎年あきらめずに主張し続けることである。

待っているだけでは、「透明な壁の刑務所」の鉄格子は開かない。上鍛冶さんの起こした裁判は、権利や自由を獲得するためには、障害者自らが動かなければいけないのだということを改めて思い出させてくれる。