コラム

第51回 視覚障害者の安全な歩行と栗原亨さんのレガシー

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2019年6月号掲載

1.はじめに

私たち視覚障害者が外出する際には様々な危険箇所があるが、やはり最も危険なのは、ホームドアが設置されていないホーム上の歩行だろう。次に来るのは、音響式信号機が設置されていない、または音響が停止している横断歩道の横断ではないだろうか。私自身、そのような横断歩道を渡る際には、いつ車が走ってくるかびくびくしながら、緊張感と不安感を抱きつつ「地雷原」を突っ切るような思いでいつも歩いている。

昨年12月7日未明、JR駒込駅前の横断歩道で、視覚障害者の栗原亨(とおる)さんが車にひかれて亡くなる事故があった。栗原さんは、歩行者用の信号機が赤だったことに気づかず、横断歩道を渡っていてワゴン車にはねられたとみられる。現場の信号機は、午後7時から午前8時まで誘導音が鳴らないように設定されており、事故当時も音響は停止されていたという。

我々の安全な歩行のために重要な音響式信号機は、平成29年度末の時点では、全国に約2万3000基設置されているそうだが、これは、全信号機の約11パーセントにすぎない。また、大半は夜間・早朝に音響が停止する。24時間誘導音が鳴る箇所は、新宿や池袋など、ごく少数の限られた信号機のみだとのことである。

音響式信号機の設置個所を増やすにはどうすればよいのか、また、夜間・早朝にも安全に道路を横断できるようにするにはどうすればよいのだろうか。

今年3月、手がかりとなる警察庁の内部通達が出された。これは旧通達(平成15年10月15日付け警察庁丁規発第77号)の改正である。今回のエッセイでは、これからの我々の安全な歩行を考える上で重要なこの通達について紹介してみたい。

2.警察庁の新しい通達の内容

(1) 音響式信号機の新設に関する規程

警察庁の発出した平成31年3月27日付の「視覚障害者用付加装置に関する設置・運用指針の制定について(通達)」では、「優先的に音響式信号機を設置すべき場所」として次のような場所があげられている。

  1. 視覚障害者の利用頻度が高い施設(駅、役所、視覚障害者団体等が在る施設、特別支援学校、リハビリテーションセンター、病院、障害者スポーツセンター等の社会福祉施設等)の周辺で、視覚障害者の需要が見込まれる横断歩道
  2. 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)における重点整備地区内の主要な生活関連経路に係る横断歩道
  3. 歩車分離制御方式のうちスクランブル方式及び歩行者専用現示方式の信号交差点

すなわち、視覚障害者の利用頻度の高い施設周辺の横断歩道やスクランブル交差点(乃至、斜め横断ができない歩車分離式の交差点)、また、「バリアフリー基本構想制度」(高齢者、障害者等が日常生活、社会生活において利用する旅客施設、官公庁施設等を含み、それらの相互施設間の移動が通常徒歩で行われる地区等において公共交通機関、建築物、道路等のバリアフリー化を重点的かつ一体的に推進するために、市町村が作成する構想のこと)で、重点整備地区に指定されている地域の横断歩道には、優先的に音響式信号機を設置することとされているのである

新しく音響式信号機の設置を求める場合、この規定を踏まえて交渉することが重要である。具体的には、特定の横断歩道に音響装置の設置を求めるならば、最寄りの警察署の交通規制係に対し、「当該横断歩道が上記の①や③に該当するので、音響式信号機を設置してほしい」という旨の説明をするのが効果的である。

また、上記の②のように、特定の横断歩道だけではなく、一定の地域全体をバリアフリー化する中で音響式信号機の整備を求めるというアプローチもある。市区町村に対し、昨年のバリアフリー法改正で策定が努力義務とされた「基本方針(マスタープラン)」や「基本構想」で、その地域を重点整備地区に指定し、いわば「面」としてバリアフリーを求めるという方法である。なお、このバリアフリーの重点整備地区に指定されると、音響式信号機の整備にも十分な補助金が出るため、整備が進みやすいようである。

(2) 夜間・早朝の安全な横断を確保するための規程

次に、すでに音響式信号機は設置されているものの、夜間や早朝に音響が鳴らないという場合にはどうすればよいだろうか。前記の通達には、「運用上の留意事項」として以下のような規定が設けられた。

  1. 音響は、歩行者や車両の通行が少ない夜間ほど必要であるという意見も視覚障害者から寄せられていることを踏まえ、音量設定機能やタイムスイッチ機能、押ボタン操作による音響出力など、周辺への騒音の影響が少ない方法を積極的かつ効果的に活用するなどして、音響鳴動時間の適切な設定に努めること。
  2. 音響を鳴動させることが困難な時間帯や場所にあっては、視覚障害者用付加装置のほか、歩行者青信号の初頭を音で知らせる音響式歩行者誘導付加装置や、スマートフォン等に歩行者信号の状態を送信する機能を備えた歩行者支援装置の設置を検討し、視覚障害者の利便性向上を図ること。

これを読んだだけではなかなかわかりにくいが、具体的には、夜間・早朝なども、次のような手段によって、視覚障害者が安全に横断できるようにすることを求めているのである。

  1. 既存の音響信号機について、夜間・早朝など音響が停止されている時間帯も、押しボタンやシグナルエイド(歩行時間延長信号機用小型送信機)を操作したときには音響が鳴るように設定を変更する。
  2. 警視庁が設置を進めている新しいタッチ式押しボタン箱のように、信号が青になった際に「ピヨピヨ」「カッコー」といった誘導音だけでなく、「青になりました」といった音声を発生する装置を整備し、夜間や早朝には、誘導音を停止したとしても、「青になりました」などの音声だけは発生するように設定する。
  3. 信号の情報をブルートゥースでスマホに送信し、歩行者が確認できるようにするなどの、近年開発されたシステムを導入する(なお、このシステムは全国に先駆けて、今年度、宮城県内で整備が始まるようである)。

3.終わりに

本稿で紹介した新しい通達のうち、夜間・早朝の安全な横断に関する部分は、それが発出されたタイミングからして、栗原さんの悲劇を受けて設けられたものだと考えられる。

栗原さんが命を懸けて残してくれたレガシーを、活かすかどうかは私たち次第だ。通達が改正されても、黙っていては音響式信号機の整備は進まない。

我々視覚障害者自身が、自らの身は自分で守るという気概で、危険な横断歩道をなくしていくため、声を上げ続けることが最も重要であることはいうまでもない。