コラム

第57回 パワハラに負けないために 知っておきたいいくつかのこと

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2019年12月号掲載

1.はじめに

以下は、最近、働く障害者が実際に体験した出来事である。

上司から、「あなたは能力がないので、障害者施設に入っておとなしくしていた方がいい」と何度も言われた。全盲の大学教員に対し、研究室を明け渡し、授業の担当から外れて事務仕事のみを行えという業務命令が出された。

現在、職場におけるパワーハラスメントが社会的に大きな問題となっているが、いじめや嫌がらせというのは、他者と違う特徴を持っていたり、何らかの生きづらさを抱えたりしている者に向かいやすく、障害者はその対象になりやすい。

今年5月29日、改正労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)が成立し、10月21日、厚労省から同法の内容を具体化した指針案が示された。今回のエッセイでは、これらの内容を紹介しつつ、私たちが、もしも職場でパワハラに遭ってしまったらどうするべきかについて考えてみたい。

2.パワハラとは何か

もし、職場で、上司などの言動のために仕事のしづらさを感じているならば、まず、自分が受けている行為がパワハラに該当するかどうかを確認することが必要である。

パワハラは2000年代になって提唱されるようになった新しい概念であり、これまで、わが国では、パワハラとは何かということが法律で定義されていなかった。そのため、ある行為がパワハラなのかどうかを判断する社会共通の物差しが、そもそも存在しなかったといえる。今般の労働施策総合推進法の改正で、初めてパワハラの法律上の定義が設けられた。

同法30条の2では、パワハラを、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と定義している。

長くて分かりにくいが、ポイントは、「職場」における「優越的な関係」を背景とする言動であるということと、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」ものであるということである。

優越的な関係を背景とする言動とは、上司など社内の地位が上位にある者からの言動であったり、同僚や部下であっても、その仕事について知識や経験があり、その者の協力を得なければ仕事を円滑に進めることができないような者からの言動をいう。パワハラというと、上司から部下に対して行われるものだと考えがちであるが、同僚や部下からの物であっても、職場の人間関係における何らかの優位性を背景に行われるのであれば、パワハラになりうるのである。

次に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動とは、本来、業務上必要がないのに行われた言動や、業務上の必要があったとしても、手段として不適当な態様で行われたものなどをいう。例えば冒頭の例のように、上司が「施設に入っておとなしくしていた方がいい」という暴言を浴びせることは、業務上の必要性などあるわけがないので、これに該当することになる。

3.パワハラの行為の6類型

厚労省の作成した改正労働施策総合推進法の指針案では、前述の業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動の典型的なパターンとして、6つの行為類型を挙げ、各々の具体例を示している。

これは、あくまで典型的なパターンを類型化したものであり、パワハラはこれに限られるわけではないが、自分の受けている行為がパワハラかもしれないと考えた場合、この6つのいずれかの類型に当てはまるかを確認してみることが、頭の整理としてはよいのではないだろうか。

以下、指針案から要約して紹介する。

(1)身体的な攻撃

  • 殴る、蹴る、物を投げつけるといった暴力をふるうなど

(2)精神的な攻撃

  • 人格を否定するような発言をする
  • 長時間にわたり、繰り返し執拗に叱る
  • 同僚の目の前でたびたび叱責する
  • 他の職員を宛先に含めてメールで罵倒するなど

(3)人間関係からの切り離し

  • 長期間にわたって1人だけ別室に席を移したり、自宅研修させる
  • 集団で無視をするなど

(4)過大な要求

  • 本来の仕事とは関係のない、肉体的苦痛を伴う過酷な業務を行わせる
  • 新人で仕事に慣れていない労働者に、到底達成できない目標を課し、できないことを叱責する
  • 本来の仕事とは関係のない私的な雑用を強制するなど

(5)過小な要求

  • 管理職を退職に追い込むため、だれでも遂行可能な業務をさせる
  • 嫌がらせのため、気に入らない労働者に仕事を与えない

(6)個の侵害

  • 労働者を職場外でも監視する
  • 私物の写真撮影をする
  • 労働者の性的指向や病歴などを、了解を得ずに他の労働者に明かすことなど

4.パワハラの証拠を集めることの重要性

加害者側にパワハラをしているという意識がないというのが、パワハラの特徴の1つである。そのため、被害者が相談窓口などに被害を訴えたとしても、加害者側はパワハラの存在を否定してくる可能性が高い。

そこで、被害者としては、パワハラを裏付ける証拠を集めることが肝要となる。具体的には、暴言を浴びせられている場面の録音、上司などから送られてきたメールやLINE、そのような物的証拠がない場合には、パワハラの事実を記載した自分の日記など、何らかの証拠を集めることが極めて重要である。

パワハラの多くは「お前のため」などという形で行われることが多いので、録音をすることに対してためらいが生じるかもしれない。また、パワハラを受けている最中は目の前の事態を乗り切ることに必死で、何か対策をすることさえ考えられない事態に追い込まれる。

しかし、証拠がないと、パワハラを認定することができないのである。パワハラかどうか分からなくても、まずはとにかく録音しておくことをお勧めしたい。

5.相談窓口などの利用

改正労働施策総合推進法では、事業主に、パワハラ相談に対応する窓口を設置し、相談に適切に対応しなければいけないという措置義務が規定された。そして、パワハラの被害者が、このような社内の窓口や外部の相談機関、例えば労働局や弁護士などに相談したことを理由に、解雇など不利な扱いを行ってはいけないことも定められた。

パワハラをその当事者間で解決することはほぼ不可能なので、パワハラの被害に遭ったら、前述した知識を身に着け、証拠を集めたうえで、社内外の相談窓口に被害を訴えることが問題解決のためには絶対必要である。

6.終わりに

パワハラは、個人の尊厳を著しく傷つけ、心身にも大きな被害を与えるものである。しかし、きちんとした知識を持ち、適切に対処すれば、必ずしも解決不可能な問題ではない。

最も大切なのは、つらいと思ったら、自分ひとりで悩まず、誰かに相談することだ。私たちは、人によって傷つけられるが、それを癒すことができるのも人なのだと私は信じている。