コラム

あはき法違憲訴訟東京地裁判決を読む

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2020年2月号掲載

1.はじめに

昨年12月16日、東京地裁において、健常者を対象とするあん摩マッサージ指圧師(以下、「あマ指師」という)養成学校の新設や定員増を制限する「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」(以下「あはき法」という)19条1項の合憲性が争われた訴訟の判決が言い渡された。今回は、その判決の概要を紹介し、今後の見通しについて書きたいと思う。

2.本訴訟に至る経緯

学校法人平成医療学園は、平成27年9月、国に対し、同法人が運営する横浜医療専門学校(横浜市)に、健常者を対象としたあマ指師国家試験の受験資格の得られる養成課程の新設を申請した。しかし、国は翌年の2月に、医道審議会あはき柔整分科会の答申をふまえ、あはき法19条に基づき、同課程の設置申請を不認定とした。平成医療学園は、この処分を不服として、東京地裁に不認定処分の取り消しを求めて訴訟を提起した。

本訴訟で、平成医療学園は「あはき法19条は、国民の職業選択の自由を保障した憲法22条1項に違反する違憲な法律である。国が、本学園の健常者向けあマ指師養成過程の新設を認めなかったことは、憲法違反の法律に基づく不当な処分であるから取り消されなければならない」などと主張した。

3.本判決の概要

(1)裁判所の判断の枠組み(違憲審査基準)

憲法訴訟では、ある法律が憲法に違反するかどうかをどのような基準で判断するのかがまず問題となる。この点について、東京地裁は、あはき法19条が職業選択の自由に対する規制として憲法22条1項に反するか否かを審査するに当たり、立法目的の正当性、規制の必要性、手段の合理性のそれぞれの点について、国会の立法裁量を逸脱するような著しい不合理があるかどうかを裁判所がチェックするという、これまでの判例に従った、いわゆる「明白性の基準」という違憲審査基準を採用した。

(2)立法目的の正当性について

そのうえで、まず裁判所は、あはき法19条の立法目的について次のように述べる。

すなわち、「視覚障害者は、その障害のため、事実上及び法律上、従事できる職種が限られ、転業することも容易ではないところ、視覚障害者については、従来からその多くがあん摩マッサージ指圧師の業務に従事してきたことから、視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し、その生計の維持が著しく困難とならないようにすることで、視覚障害者を社会政策上保護する」ことがあはき法19条の目的だという。

この立法目的に正当性があるといえるかどうかが一つの大きな争点であった。平成医療学園は、あはき法19条制定から50年以上が経過し、ICTの進歩などを受けて視覚障害者もあマ指業以外の様々な職業に就くことができるようになったし、障害年金や生活保護などの福祉制度も整備されたので、生計も成り立つようになった。そのため、現在では、視覚障害者のあマ指業の職域を優先し、特別に保護する必要性はなくなったので、立法目的の正当性は失われたと主張した。

平成医療学園のこのような主張に対し、裁判所は、①あはき法制定後も視覚障害者の数が減少していないこと、②視覚障害者の就業率は依然として低いこと、③視覚障害者の約3割があはき関係業務に就いていること、④とりわけ重度視覚障害の有職者に至っては7割を超えるものがあはき関係業務に就いていること、⑤視覚特別支援学校の新卒者の相当数があはきの国家試験の受験をしていることという事実を挙げ、現在もなお「視覚障害者におけるあん摩マッサージ指圧師業の重要度が特別な保護を必要としない程度にまで低下したとみることは相当ではない」とする。つまり、依然として視覚障害者の多くがあはき業に依存しており、視覚障害者の他の適職も見出されておらず、あはき業について特別な保護が必要だというのである。

さらに、裁判所は、⑥視覚障害を持つあはき師のうち年収300万円以下の者が平成25年では約76パーセントであること、⑦平成14年時点で、視覚障害を持つあはき師のうち、およそ半数は障害年金などを受給していないことから、「障害年金制度の拡充等によっても、視覚障害者の生計が更に特別な保護を必要としない程度にまで改善されたとみることは相当ではない」と述べる。つまり、障害年金などの福祉制度が拡充されてきたといっても、あはき業を営んでいる多くの視覚障害者の生計は厳しい状態であり、依然として保護は必要だというのである。

そして、裁判所は、これらの事実からすれば、「視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し、その生計の維持が著しく困難とならないようにするという…(中略)…(立法)目的の正当性が、現在において失われたと認めることはできない」と判断した。

(3)規制の必要性について

次に、裁判所は、健常者を対象とするあマ指師養成施設の新設、定員増を規制する必要性については、以下のように述べる。

①あはき法19条が制定された昭和39年以降、健常者のあマ指師が増加していること、②健常者のあはき師と視覚障害者のあはき師の間には2倍以上の年収格差があること、③健常者を対象とするあマ指師養成施設の受験者数はその募集定員を大きく上回っていること、④平成10年の福岡地裁の判決を受け、健常者対象の柔整師・はり師・きゅう師の養成学校の新設制限が撤廃されて以降、これらの学校の数および定員が大幅に増加したことという事実を挙げ、あはき法19条による制限がなくなれば、健常者を対象とするあマ指師の養成施設等の数及び定員が急激に増加し、健常者のあマ指師の数も急激に増加することが想定されるのであって、「このような急激な増加は、視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の業務を圧迫することになる」と述べる。

そして、裁判所は、「現在においても、…(中略)…視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の設置及び定員の増加を抑制する必要性の存在を認めることができる」と判断した。

(4)規制手段の合理性について

規制手段の合理性については、裁判所は次のように述べ、手段の合理性を肯定した。

視覚障害者であるあマ指師の職域を優先し、その生計が著しく困難にならないようにするという目的を達成するため、必要がある場合に限り、健常者向けのあマ指師養成施設の新設等を認めないという手段を採用することは「合理的なものということができる」。また、その判断に当たり、あマ指師の総数に占める健常者の割合などを勘案すること、その判断を厚労大臣などに委ねることも「不合理とはいえない」。さらに、その判断に際して医道審議会の意見を聞くこととしていることも「処分の適正さを担保するための方策として合理的であるといえる」。

(5)結論

そして、裁判所は、「視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し、その生計の維持が著しく困難とならないようにすることを重要な公益と認め、その目的のために必要かつ合理的な措置として…(中略)…(あはき法19条を)定め、これを今なお維持している立法府の判断が、その政策的・技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であるとはいえない」。そのため、同法は憲法22条1項に反しないと結論付けた。

4.本判決の評価と今後の見通し

今回の東京地裁の判決は、現在、日本社会に吹き荒れている規制緩和や自己責任の風潮に流されず、裁判所が、視覚障害あマ指師の置かれている厳しい現状を理解し、国による視覚障害あマ指師の積極的な保護の必要性を認めたものとして評価することができる。判決理由を見ても、客観的なデータに基づく説得力のある内容であり、よほどのことがない限り、この判断が高裁や最高裁で覆ることは考えにくい。

しかし、私は、ここで安心してはいけないと思うのである。

賢い経営者であれば、次に健常者対象のあマ指師養成学校の新設をめざして、北海道など健常者対象の学校がない「空白地帯」を狙うだろうし、また、認可を受けるためなら、建前上、視覚障害者も入学できるインクルーシブな養成学校であるなどと喧伝し、医道審議会で反対が出にくい形をとってくるだろう。

加えて、司法の壁が厚いと知った以上、今後、平成医療学園に代表される勢力は、あはき法自体の法改正を求めて政治家への働きかけを強めてくるかもしれない。

このような動きに対し、私たちはなにをすべきだろうか。重要なのは、やはり国民の理解を広げることだ。もう一度、あん摩が視覚障害者にどれほど適した仕事であるのか、また、視覚障害者があん摩をすることが、どのように国民の利益につながるのかということを議論し、それを広く伝えていく努力をしていかなければならないのではないだろうか。