コラム

障害者差別解消法の改正法案が提出された

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2021年4月号掲載

1.はじめに

私は今年、とても期待していることが1つある。久しぶりのリアル飲み会でも、ランニングの再開でもなく、それは、障害者差別解消法(以下、「差別解消法」という)の改正だ。

政府は、内閣府の障害者政策委員会での議論を踏まえ、現在開会中の通常国会に差別解消法の改正法案を提出している。今回は、この法案の内容について解説し、これが成立すると、私たちの暮らしはどのように変わるのかを考えてみたい。

2.現在の差別解消法の問題点

差別解消法が施行されたのは2016年4月、今から5年前のことである。それまで、障害者に対する差別を禁止するという明確なルールのなかった我が国に、「不当な差別的取り扱いの禁止」と「合理的配慮の提供義務」という新たなルールを導入する画期的な出来事だった。

しかし、当時、このような新たなルールを社会に導入することには様々な抵抗があり、多様なステークホルダーの意見の調整が試みられた末に、差別解消法は、私からしてみると、いくつかの課題を抱えたまま船出することになった。法律の成立に尽力されたある関係者も、「小さく生んで大きく育てていけばいい」と言っていたのを覚えている。

その課題とは次の2つだ。

1つ目は、民間事業者の合理的配慮の提供が努力義務にとどまったということ。合理的配慮とは、障害者が障害のない人と平等に社会に参加するために必要となる施設の改良、補助手段の提供、ルールの変更などであって過重な負担を伴わないものをいうが、行政機関についてはその提供が法的義務とされた一方、民間事業者については努力義務とされたのである(差別解消法7条2項、8条2項)。

2つ目は、障害者が差別されたり、合理的配慮の提供を受けられなかった場合に、相談をしたり、相手との間に入って問題解決の支援をしてくれる機関の位置づけが不十分なことだ。

改正法案では、次より述べる通り、これらの課題の解決が試みられている。

3.民間事業者の合理的背理の義務化について

現行の差別解消法第8条第2項では、民間事業者の合理的配慮は「しなければ」ならないものではなく、あくまで「するように努めなければ」ならないものだとされている。その結果、障害者が合理的配慮の提供を求めても、民間事業者側がそれに対して真摯に向き合わないこともあった。

また、法的義務ではなく努力義務であるために、行政の担当者などが事業者に配慮を行うよう指導する場合、いわば「お願いベース」での指導しかできず、指導の実効性が上がらないという問題もあったようである。

今回の改正では、民間事業者の合理的配慮が法的義務になることで、これらの問題が解決に向かうものと思われる。

まず、合理的配慮が法的義務になったということのインパクトはかなり大きく、改めて差別解消法の存在を社会に対して周知し、社会的変化につなげていくきっかけになるはずである。

さらに、合理的配慮を提供しない事業者に対して、行政としても、強力な指導を行うことができるようになり、問題解決の実効性が高まることが期待される。

一方、法的な側面でいえば、障害者は、合理的配慮を提供してくれない事業者に対して、裁判を起こしてその違法性を追求することができるようになる。

4.差別や合理的配慮に関する相談体制の充実

差別解消法施行の際には、相談や紛争解決について、新たな機関は作らず、既存の窓口、具体的には法務局の人権擁護窓口や各地方自治体の障害者福祉担当の窓口が、相談等に当たることを想定していた。

一部の自治体では、独自の条例を作って相談や紛争解決の体制を整備し、成果を上げているが、多くの自治体では、残念ながら、ほとんど差別などに関する相談もなければ、何らかの問題解決につながったという実績もないようである。

驚くべきことに、2016年と2017年の実績では、地方自治体のうち、そもそも相談件数の集計を取っていない自治体が46パーセント、集計をとっている自治体でも、年間の相談件数が0件から9件という自治体が74パーセントだということである(第43回障害者政策委員会に提出された内閣府の資料より)。

世の中に、障害者に対する差別や合理的配慮の不提供という事態が起こっていないはずはないので、そのような体験をしたとしても、多くの場合、適切な相談窓口とつながることができていないと思われる。そして、相談体制が整備されていないから相談もしない、相談がないから体制も整備されず、解決事例も蓄積されないというスパイラルに陥っているのではないか。

このような現状を変えていくため、改正法では、政府の作るガイドラインである「基本方針」に、相談体制の拡充に関する内容を定めること、相談にあたる人材の育成や確保を国や地方自治体の責務とすること、国と自治体が連携・協力して差別の解消の推進に当たること、相談事例を適切に収集、整理することなどが定められる見込みである。

政府がどのような相談体制を想定しているのかは、今後策定される「基本方針」で具体化されるが、国と自治体が、相談にあたる人材を育成・確保し、「使える」相談窓口を整備しなければいけないという基本的な方向性は明確になったといえる。

5.終わりに

差別解消法が作られても、結局、何が変わったのかわからないという感覚を持ってきた人も少なくないのではないだろうか。私自身、障害当事者としても弁護士としても、差別解消法は「理念は素晴らしいのだけれど、実際にはあまり使えない」という思いを抱いてきた。飲食店の店頭に飾られた、おいしそうに見えるけれど食べられない蝋細工のようなもどかしさがあった。

改正法が成立すれば、民間事業者の合理的配慮が法的義務となり、差別や合理的配慮の不提供に関する相談、紛争解決の仕組みが整えられることになるはずだ。私は、今度こそ、差別解消法の味を心ゆくまでかみしめたいと期待している。

【参考】提出された改正法案の内容。「 」、( )内は私の補足である。

  • 第3条「国及び地方公共団体の責務」に次の一項を加える。
    2 国及び地方公共団体は、障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策の効率的かつ効果的な実施が促進されるよう、適切な役割分担を行うとともに、相互に連携を図りながら協力しなければならない。
  • 第6条「基本方針」第2項中第四号を第五号とし、第三号の次に次の一号を加える。
    四 国及び地方公共団体による障害を理由とする差別を解消するための支援措置の実施に関する基本的な事項
  • 第8条「事業者における障害を理由とする差別の禁止」第2項中(事業者は《中略》必要かつ合理的な配慮を)「するように努めなければ」を「しなければ」(ならない)に改める。
  • 第14条「相談及び紛争の防止等のための体制の整備」中(国及び地方公共団体は《中略》障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることが)「できるよう」の下に「人材の育成及び確保のための措置その他の」(必要な体制の整備を図るものとする)を加える。
  • 第16条「情報の収集、整理及び提供」に次の一項を加える。
    2 地方公共団体は、障害を理由とする差別を解消するための取組に資するよう、地域における障害を理由とする差別及びその解消のための取組に関する情報の収集、整理及び提供を行うよう努めるものとする。