コラム

雇用施策と福祉施策の連携による就労支援の制度を乗りこなす

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2021年6月号掲載

1.はじめに

東京で電車に乗っていると、鉄道路線の相互乗り入れにより、同じ電車に乗っているにもかかわらず、いつの間にか鉄道会社や路線が変わっていることがある。東急東横線に乗ったはずが渋谷から東京メトロ副都心線に入り、小竹向原からは西武有楽町線を経由して西武池袋線になるといった具合だ。路線同士がつながって便利になったが、慣れるまでは少し戸惑ってしまう。

ところで、昨年10月から、雇用施策と福祉施策の連携による重度障害者等の就労支援の制度が始まった。会社の通勤にもガイドヘルパーが使える、あはきの治療院の書類仕事にもヘルパーのサポートが受けられるという、例のあれである。

経済活動にも福祉サービスを使えるようにすることは、日視連などの当事者団体が長年にわたって要望し続けてきたことであり、読者の皆さんの中にも是非とも利用したいという方は少なくないのではないだろうか。

にもかかわらず、私の知る限り、制度発足後、今年3月末までの半年間に、この制度を利用した視覚障害者は全国に1人もいない。これにはいくつかの理由があるはずだが、あたかも鉄道路線の相互乗り入れのように、複数の制度が連携したことで仕組みが複雑になり、障害者を雇用する企業、市区町村などの自治体、障害者自身が、どうやって手を出してよいのかわからずにいるという事情もあるのではないか。

今回は視覚障害者の立場から一連の新制度について概観してみたい。皆さんの新制度利用への喚起となれば幸いである。

2.新制度の全体像

(1)3つの制度

重度障害者に対する通勤及び職場における新しい支援制度は、次の3つの制度から成り立っている。①雇用施策である「重度訪問介護サービス利用者等職場介助助成金」、②同じく雇用施策である「重度訪問介護サービス利用者等通勤援助助成金」、及び③福祉施策である「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」だ。

制度の名前が難しいので、以下では、上の①と②を一括して「助成金」と呼び、③を「特別事業」と呼ぶことにする。また、以下の説明ではわかりやすさを優先し、一部、厳密さを欠いた説明をしている部分があるがご了承いただきたい。

(2)サービスを利用できる人、提供する人について

これらの「助成金」、「特別事業」とも、制度を利用できるのは、重度訪問介護、同行援護、行動援護を利用している重度障害者で、サービスを提供するのは、それぞれ、重度訪問介護事業者、同行援護事業者、行動援護事業者である。視覚障害者は、同行援護事業者のサービスを受けることが多いものと思われる。

(3)民間企業で働いている視覚障害者が使える制度

あなたが民間企業で働いているならば、以下のような組み合わせで新制度を使うことになる。

ア.通勤について

通勤にガイドヘルパーを使う場合、1年間を通じて同じ同行援護事業者のサービスを受けるとしても、最初の3カ月は「助成金」から、4カ月目以降は「特別事業」からガイドヘルパーの費用が支払われる。そして、2年目以降も同様に「助成金」と「特別事業」を組み合わせて使うことになる。同じ通勤支援であるにもかかわらず、3カ月目までとそれ以後で、いわば「路線名」が変わるというわけである。

イ.職場でのサポートについて

新制度では、視覚障害者が職場で行う業務などをガイドヘルパーにサポートしてもらうことができる。ただし、サポートの対象となる行為の性質により、同行援護事業者に支払われるお金の出所が変わってくる。

例えば、墨字文書の作成・朗読、勤務時間中の外出等、業務に直接関連するサポートに要する時間については「助成金」から、一方、食事、排泄、見守りなど業務に直接関連しないが、仕事をする上で必要となる介助に要する時間については「特別事業」から、ガイドヘルパーの費用が支払われる。

同じガイドヘルパーが行うサポートであっても、支援対象業務の性質によって「路線名」の変更が起こるわけである。

ウ.サービス利用を申し込む方法について

民間企業に勤めている視覚障害者がこれらの制度を使うためには、まず、勤め先の企業、サービス提供事業者、お住まいの市区町村の関係部署などと協力して、所定の「支援計画書」という書類を作り、これを勤め先の企業から独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)に提出してもらう必要がある。そして、この「支援計画書」を付して、お住まいの市区町村に「特別事業」の利用を申し込む。

このように、利用申し込みに当たっては、関係者間の密接な協力が求められる。

(4)自営業を営んでいる視覚障害者が使える制度

ここまで説明したように、民間企業で働く視覚障害者に関する新しい支援制度は、福祉と雇用の「相互乗り入れ」によっていささか複雑なものになっている。一方、自営業者に対する支援制度はシンプルである。

一言でいえば、通勤の支援についても墨字文書の読み書きや往療への付き添いなど、仕事上の支援についても、いずれの場合もすべて福祉施策である「特別事業」から同行援護事業者に費用が支払われる。

利用申し込みの方法も単純で、視覚障害者本人が、お住まいの市区町村に対して「特別事業」の利用申請を行うだけである。なお、自営業者の場合は「支援計画書」の作成は必須ではないが、同行援護事業者に協力してもらってこれを作成することで、適切なサービス利用時間が認められやすくなるものと思われる。

3.あはき事業者に関する厚労省のQ&A

多くの視覚障害者が従事しているあはき業について、厚労省では「特別事業」の実施主体となる自治体に対し、Q&Aを発出している(社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課の令和3年3月31日付「事務連絡」)。要約していくつか紹介しよう。

「あはき業を居宅内で行っている場合、支援を居宅内で行うことは可能か」に対して、「外出時ではないことから、支援対象とは想定していないものの、市町村等が認める場合においては支援対象として差し支えない」とし、居宅内において利用者が就労するためのスペースが明確である場合には、当該スペースを職場として扱う」などの方法が例示されている。

「書類作成支援や事業所の清掃、往療時などのガイドヘルパーによる自動車の運転」については、「書類作成支援は、障害者雇用納付金制度に基づく助成金の『業務介助』としても認められるが、事業所の清掃は助成金においても想定していないことから、本事業としてもその活用を想定していない」とし、「ガイドヘルパーによる自動車の運転は、同行援護において、移送(運転)の行為はサービスに含まれないとされていることから、本事業においても対象とならない」としている。

4.終わりに

「特別事業」は市区町村ごとにこれを実施するかどうかを選択できる「地域生活支援推進事業」であるため、まだこの制度が使える自治体は限られている。しかし、私たち自身が制度を理解した上で、果敢に市区町村に利用申し込みをしていくことで制度の利用は広がっていくはずだ。

新制度は複数の制度が連携しておりいささか複雑だ。しかし、鉄道路線の相互乗り入れも、最初のうちは勝手がわからず不安だが、慣れてしまえば実に便利なものだ。雇用施策と福祉施策の連携による就労支援の制度を乗りこなして、新たな景色を見に行こうではないか。