コラム

福祉制度の併用・併給に関する今年の注目トピックス

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2021年12月号掲載

1.はじめに

1人の視覚障害者が、同時に人生の困難を複数抱えることがある。例えば、離婚して障害のある親が1人で子育てをしなければならなくなることもあるし、全盲であることに加え、高齢になって、介助者なしでの外出が難しくなることもある。しかし、福祉制度の多くは択一関係で、残念ながら複数の困難を補うようにはできていない。例えば、障害者対象の制度を使ってしまうと、子育てを支援する制度や高齢者を支援する制度は使えなくなるという具合だ。夏目漱石の『草枕』ではないが、複数の困難を抱えた障害者にとって、「兎角に人の世は住みにくい」のである。

今回のエッセイでは、このように、私たちが障害プラスアルファの困難を抱えた場合における、グッドニュースを1つ、バッドニュースを1つ紹介したいと思う。

2.障害基礎年金と児童扶養手当の併給が認められた!

まずはグッドニュースの方からお話する。

離婚などでシングルマザーやシングルファザーになった場合、児童扶養手当という、主にひとり親家庭を支援するための手当て(子ども1人の場合、満額で月額4万3150円)を受給できる。しかし、これまでは、シングルマザーやシングルファザーが障害基礎年金を受給していると、この手当を受けられない仕組みになっていた。

ひとり親が公的年金を受給している場合も、「児童扶養手当よりも年金額が低い時には差額を受給できる」とはなっていたのだが、障害基礎年金はもともと同手当よりも高額なので、結果的に、障害のあるひとり親は児童扶養手当の支給の対象外とされてきたのである。公的給付の「2重払い」はしないというのが基本的な国のスタンスだ。

しかし、考えてみてほしい。1人で子供を育てるということは実に大変なことだ。育児と仕事を両立しなければならず、労働時間の制約などから十分な収入が得られないということも珍しくない。

加えて1人親に障害があれば、その困難は健常者の2倍にも3倍にもなるはずだ。障害基礎年金を受給していると児童扶養手当が受給できないというのは、障害を持つシングルマザーやシングルファザーにとってあまりにも酷ではないだろうか。

障害基礎年金と手当の併給ができないのはおかしいとして裁判が起こされ、国会でも問題となったことで、今年の3月から、ようやくこのような仕組みが改められることになった。

障害を持つ親が障害基礎年金を受給している場合、子の人数に応じて「子の加算」が年金に上乗せされる。見直し後の制度では、「子の加算」に加え、「子の加算分と児童扶養手当の金額の差額」が新たに受給できるようになったのだ。

具体的に令和3年度の年金額でみると、これまでは、障害基礎年金1級のひとり親が子ども1人を育てる場合、受給できるのは、基礎年金8万1343円と子の加算分1万8725円の合計10万68円だった。それが、今年3月からは、これに加えて、子の加算分と児童扶養手当4万3150円の差額である2万4425円が新たに加わり、合計12万4493円が受給できるようになった。

これでも、障害を持つシングルマザーやシングルファザーの実態に照らせば、金額的に十分な額ということはできないが、これまで公的給付の「2重払い」に否定的だった国が、障害基礎年金と他の公的給付の併給を認めたことには大きな意味があると考える。

3.東京都シルバーパスと障害者手帳の併用が不可となった…

今度はバッドニュースの方をお話することにする。

東京都では、70歳以上になると、「東京都シルバーパス」という高齢者向けの特別な乗車券を持つことができるようになる。このパスを持っていれば、東京都内のほとんどのバス、都営地下鉄、都電などが乗り放題になる。利用を希望する高齢者は、本人の収入に応じて、年間1000円または2万510円でこのパスを購入する。

従来は、都営でも民営でも、このパスを持っている視覚障害者がバスを利用する際、障害者手帳を提示すると、本人は無料、介助者は通常の半額の料金で乗車することができた。

ところが、ここ数年の間に民営バスにおける取り扱いが変わってきた。「シルバーパスと障害者手帳の併用は認めない」というのである。

例えば、東急バスのホームページには今年2月17日付で以下のような内容の案内が出された。

「東京都シルバーパス制度と各種障害者制度は別個の制度となっております。2021年2月1日(月)より東京都シルバーパスと障害者割引制度の併用についての運用を以下のとおりとさせていただきますので、ご了承の上、ご利用いただきますようお願い申し上げます。」

「東京都シルバーパス制度と障害者割引制度を併用することはできませんので、介護人の方がご乗車される場合は、介護人の方の普通運賃を別途お支払いいただきますよう、ご理解の程お願いいたします。」

【引用元https://www.tokyubus.co.jp/news/002342.html

このように、現在、高齢の視覚障害者が都内の民営バスに介助者を連れて乗車する場合、シルバーパスを使い、介助者については1人分の運賃を支払うか、あるいはシルバーパスを使用せず、障害者手帳を提示して本人と介助者それぞれ半額の運賃を支払うかを選択しなければならなくなった。

確かに、介助者を同伴している場合も2人分の運賃を支払わなければならないわけではない。しかし、健常な高齢者は、多くの場合(年間の課税所得が135万円以下の場合)、1000円のパスを購入すれば、何度でも無料でバスを利用できる一方で、外出に介助者の支援を必要とする視覚障害者は、バスに乗るたびに必ず1人分の運賃を支払わなければならないということになる。日常的にバスを利用する高齢の視覚障害者にとっては、これが相当な負担になりつつある。

ところで、シルバーパスの制度は、東京バス協会という一般社団法人が運営し、そこに東京都が年間190億円程度の補助金を拠出している。そこで、両者にシルバーパスと障害者手帳の併用を認めないことについての見解を聞いてみると、バス協会は、「別の制度なので併用はできない」と説明し、東京都は、「バス協会が決めることであり、東京都は関知しない」という。

若いころには1人で歩いていた視覚障害者も、高齢になり、体力や聴力に自信がなくなって介助者と外出するようになる方は少なくない。そのような場合に、健常な高齢者と同じ「年間1000円で乗り放題」とまではいかなくとも、シルバーパスと障害者手帳の併用を認め、介助者がいても1人分の半額の運賃を支払えばバスに乗れるとすることが、「高齢者の社会参加の機会の拡大と福祉の増進」というシルバーパス制度の目的にかなうのではないだろうか。おそらく、今、声を上げないと、改悪された制度が定着してしまうだろう。誰しもいずれ歳を取る。他人ごとではないはずだ。

4.終わりに

障害と子育て、障害と高齢など、人生の困難が複数重なった時、ある支援策を選ぶとほかの支援策が使えなくなるという仕組みは、福祉予算の削減と支援の公平性という名目で、最も過酷な状況にある人のニーズを切り捨てることにつながる。果たしてそれでよいのだろうか。私たちの社会は、複数の困難が重なり、過酷な状況に置かれている人の声にももっと耳を傾けるべきではないだろうか。読者の皆さんに、改めて考えていただきたいテーマである。