コラム

第7回 差別解消法の鉄道事業者向けガイドラインを読む

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2015年10月号掲載

1.はじめに

今夏から秋にかけて、各省庁から障害者差別解消法を生活の各分野で具体化する対応要領(公務員向けのガイドライン)と対応指針(民間事業者向けのガイドライン)の案が示され、これに対するパブリックコメントが実施された。今回は、国土交通省(以下、国交省)の対応指針のうち、私たちの生活に密接な関係を持つ鉄道事業者向けの対応指針について紹介する。本稿執筆時点で、まだパブリックコメントの結果がまとまらず、正式発表される際、一部内容が変更される可能性がある。

2.鉄道事業者向け対応指針の内容

国交省が示す鉄道会社に関する対応指針案では、差別解消のための2本柱、障害を理由とする不当な差別的取り扱いの禁止と合理的配慮の提供について、次のような具体例が示された。

(1) 差別的取扱いの具体例

① 正当な理由がなく不当な差別的取扱いにあたると懸念される事例

  • 障害があることのみをもって、乗車を拒否する。
  • 障害があることのみをもって、乗車できる場所や時間帯を制限し、又は障害者でない者に対して付さない条件をつける。
  • 身体障害者補助犬法に基づく盲導犬、聴導犬、介助犬の帯同を理由として乗車を拒否する。

② 障害を理由としない、又は、正当な理由があるため、不当な差別的取扱いにあたらないと考えられる事例

  • 車いす等を使用して列車に乗車する場合、正当な理由に基づき、必要最低限の利用条件を課す。
  • 車いす等を利用して列車に乗車する場合、正当な理由に基づき、乗降に時間がかかる。

(2) 合理的配慮の提供の具体例

① 多くの事業者にとって過重な負担とならず、積極的に提供を行なうべきと考えられる事例

  • 窓口等で障害のある方の障害の特性に応じたコミュニケーション手段(筆談、読み上げなど)で対応する。

② 過重な負担とならない場合に、提供することが望ましいと考えられる事例

  • 障害のある方が列車に乗降する、又は列車の乗降のために駅構内を移動する際に手伝う。
  • 券売機の利用が難しい場合、障害の特性に応じ、窓口での発売や券売機操作を手伝う。

3.鉄道事業者向け対応指針の評価と課題

今回の対応指針の中で、特に視覚障害者にとって意味があるのは、鉄道事業者側で提供すべき合理的配慮として「障害のある方が列車に乗降する、又は列車の乗降のために駅構内を移動する際に手伝う」ことが明記された点である。現在でも駅員などによる視覚障害者の誘導は一定程度実現しているが、時々、「そういうお手伝いはできないんですよ」「今、手が離せないから」などと手伝いを拒否されることもある。誘導技術にもばらつきがある。今回、対応指針の中で駅員による手助けが定められたことで、今後、これに従った内部規則の整備と駅員等への研修が進められるはずであり、この点は評価できる。

しかし、合理的配慮としての駅員等による手助けに関しては、今後、さらに改善されなければならない課題が残されている。それは、①視覚障害者が駅員に合理的配慮を求める意思表示を行ないやすくする仕組みの整備が必要であり、②複数の鉄道事業者が乗り入れている駅での各自業者間の調整の問題である。

まず、合理的配慮を求める意思表示の手段の整備が必要であるということについて述べたい。

視覚障害者が特に駅員の手助けを必要とするのは、日常的に利用する駅ではなく、初めて利用する駅やたまにしか利用しない駅である。その場合、駅の構造がわからないため、駅員を探すのにも苦労する。また中小規模の駅では、駅員は改札口に常駐していない。手助けを求めるためには駅事務室にインターホンなどで連絡する必要がある。しかし、視覚障害者にはそのインターホンの設置場所がわからないことも少なくない。

これを改善するためには、障害者が駅を利用する場合、自分の携帯電話から駅の事務室に電話をかけ、駅員に合理的配慮の提供を求めることができる仕組みなどの整備が不可欠である。

次に、複数の鉄道会社が乗り入れる駅における各鉄道会社間の連携の必要性について説明する。

以前、友人が渋谷駅で京王井の頭線から東急東横線への乗り換えの手助けを京王線駅員に頼んだところ、駅員から、「改札口の内側の誘導しかできない」と、東横線までの案内を拒否された。渋谷駅は現在工事中でとても入り組んでいる。渋谷駅で井の頭線から東横線に乗り換えるためには、立体迷宮のような複雑な駅の中を7階分下る必要がある。駅の構造を理解していない視覚障害者が単独で乗り換えを行なうことはほぼ絶望的に近い。視覚障害者が単独で渋谷駅を利用するには、各鉄道業者間の連携による途切れのない誘導体制が不可欠である。

視覚障害者が電車を利用して安全に移動するためには、各鉄道会社が自社の改札口の内側の誘導体制を整えるだけでは不十分であり、各路線への乗り換えを想定した切れ目のない合理的配慮の実現が必要である。

4.今後目指すべき合理的配慮の理想像について

以前、帝国ホテルで食事をした際、ドアマンの対応にとても感激した。私が車寄せでドアマンにレストランの場所を尋ねると、彼は、すっと右肘を持たせてくれて、私が17階のレストランの席に座るまで案内してくれた。その上、コートと荷物をクロークに預けるところまで手伝ってくれた。

友人から渋谷駅での出来事を聞かされた時、帝国ホテルでの経験と思わず比較してしまった。無論、ホテルと大量旅客運送を同一には論じられないが、一人のスタッフが持ち場にとらわれず、顧客が求めるものを最後まで提供する。鉄道会社を含むサービス業に期待する合理的配慮の理想型である。対応指針を踏み台にして、社会のあらゆる場面でこのような合理的配慮が実現されれば、日本は世界に誇れる素晴らしい国になると思う。