コラム

「夢の国」に残る差別

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2023年1月号掲載

1 はじめに

障害者差別解消法が施行されて7年目を迎えた。
法の施行とその後の関係者の粘り強い運動により、障害があっても、公共施設や公共交通機関は少しずつ利用しやすくなってきた。
しかし、一方で、依然として障害者が健常者と同じように利用することができない施設や乗り物がある。
それは、意外にも行楽施設のアトラクションだ。

2 頻発するアトラクションでの利用拒否

先日、東京ディズニーシーでアトラクションの利用を拒否されたという弱視の男性から話を聞いた。彼は、0.02ほどの視力があり、白杖を携帯しているものの、歩行時には周囲の状況を目で見て確認できる弱視だ。

彼が弱視の友人と2人で、園内を周遊する「ディズニーシー・エレクトリックレールウェイ(以下、エレクトリックレールウェイ)」というトロリー式電車に乗ろうとしたところ、「介助者がいないと乗車できない」と言われ乗車を断られた。

次に、「ソアリン:ファンタスティック・フライト(以下、ソアリン)」という、前面のスクリーンに空撮映像が映し出され、空を飛んでいるかのような感覚を味わうことのできるアトラクションに向かった。この時は、「エレクトリックレールウェイ」での経験から、障害者だけではアトラクションを利用することができないと思い、彼は弱視の友人1人に加え、健常者の友人1人の合計3人のグループでアトラクションに入場した。

ところが、彼が座席に座り、シートベルトを締めて上映が始まる直前、突然従業員が来て「障害者1人につき介助者1人がつかないと体験はできない」として、会場からの退出を求められたというのだ。

このような行楽地での障害者の利用拒否は、残念ながら頻繁に起こっている。近年、マスコミで報道されたものだけでも次のようなものがある。

2021年7月、愛媛県松山市にある「えひめこどもの城」において、高所に張られたワイヤーロープを滑車を使って滑り降りる「ジップライン」というアトラクションを利用しようとした障害のある女性が利用を拒否された。同アトラクションの規定には、利用できない人として、飲酒者や妊婦らとともに「障害者手帳の所持者」が列挙されていたためだ。

県は女性の申し立てを受け、その後、この規定を削除し、障害者を一律利用禁止とする運用を改めたという。

2021年7月、横浜市の都市型循環式ロープウェイ「YOKOHAMA AIR CABIN」では、これに1人で乗ろうとした聴覚障害者が利用を断られた。緊急時に電話で連絡が取れないというのがその理由だった。

このロープウェイの事業者は国土交通省から行政指導を受け、同年10月、「聴覚障害者の単独利用は断る」としたマニュアルを変更し、緊急時に文字で連絡できるタブレット端末の貸し出しを始めたという

2021年10月、山梨県富士吉田市の遊園地「富士急ハイランド」でも、聴覚障害者のアトラクション利用を拒否する事案があった。ある聴覚障害者が、同じく聴覚障害のある友人同士4人で富士急ハイランドを訪れた。手話で会話をしていたところ、ジェットコースターに乗ろうとした際、スタッフから声をかけられ、筆談で「申し訳ございません。耳が聞こえない方だけでのご乗車はできない規則になっています」と断られたという。

後日、富士急ハイランドは、この対応をホームページ上で謝罪した。

3 利用拒否をなくしていくために

冒頭に紹介したディズニーシーでの事件を受けて状況を調べてみることにした。ディズニーシーがホームページで公開している「東京ディズニーリゾート・インフォメーションブック」によると、「東京ディズニーシーのアトラクション利用について」という項で、「アトラクション利用前のお願い」として、「肢体不自由の方、視覚・発達・知的・精神障がいのある方は、必ず健常者の同伴が必要です」と規定されている。さらに、各アトラクションごとに、障害の内容に応じて必要な同伴者の数、車イス利用の可否、利用制限等がこと細かく決められていた。

例えば、「エレクトリックレールウェイ」については、視覚障害等がある場合は「車内に同伴者1名」、「ソアリン」については、視覚障害等がある場合「1名に対し同伴者1名」が必要であるとされている。弱視の男性が受けた利用拒否は、この規定に基づくものだと思われる。

ところで、障害者差別解消法では、行政機関や民間事業者に対して、障害者を障害のない人と不当に差別して取り扱うことが禁止されている(7条1項、8条1項)。

そして、内閣府が作成した同法のガイドラインである「基本方針」では、法の定める不当な差別的取り扱いについて次のように記載されている。

障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付けることなどにより、障害者の権利利益を侵害すること。

私は、今回取り上げたディズニーシーの対応は、ここにいう「不当な差別的取り扱い」に該当する可能性があると考えている。
ディズニーでは、主に緊急時などの安全確保のために障害者だけでのアトラクション利用を制限しているものと思われるが、本当に健常者が同伴しなければ安全は確保できないのだろうか。子どもや高齢者なども利用する「エレクトリックレールウェイ」や「ソアリン」が、通常の電車や映画館と比べてそれほど危険性が高いとは言えないのではないか。

障害者の利用を制限したり、障害者のみに特別な条件を課したりする規定については、その必要性について、今一度、障害当事者を交えて検証を行ってほしい。そして、もしも付き添いがいなければ安全を確保できないというのであれば、障害者がアトラクションを利用する際には、スタッフが必要な個所のみ同伴するという合理的配慮も一つの選択肢になると考える。

さらに、日本社会全体の問題として、障害者がアトラクションに参加しようとしているのを見かけたら、周囲のお客さんが自然にサポートしてくれるような環境が実現すれば、将来的には、「インフォメーションブック」に記載されているような制限自体もなくすことができるのかもしれない。

視覚障害者同士のカップルや、子ども連れで訪れた視覚障害の父親・母親もアトラクションを楽しめるような遊園地の実現。「夢の国」には、そんな社会の実現のための先駆けになってほしいと願っている。