視覚障害理由に授業はずしは無効、岡山地裁画期的判決!
共生社会の足音
1.本件のいきさつと判決の概要
3月28日、岡山地裁において、岡山短期大学(岡山県倉敷市)に勤務する山口雪子准教授が、同短大に対し、視覚障害のために十分な学生の指導が行えないなどの理由で授業をはずされ、事務職に職務変更されたことは違法だとして、当該業務命令の無効確認等を求めて起こした訴訟の判決が言い渡された。
山口准教授は、網膜色素変性症のため視覚障害が進行し、数年前からは文字の判読も困難になったが、私費で補佐員を雇用するなどして同短大幼児教育学科において「環境」や「卒業研究」などの科目を担当してきた。
短大側は、山口准教授の授業はその内容が短大の授業として求められる水準からかけ離れており、教員としての能力、資質を欠いていること、視覚障害の進行した山口准教授が、授業中、学生の飲食、睡眠、無断退室などを注意できなかったことなどを理由に、山口准教授に授業を担当させず、学科事務のみを担当させるという職務変更命令を行った。これに対し、山口准教授は、学生への授業アンケートの結果を見ても、自身の授業は学生からも高く評価されており、教員としての能力を欠くという評価は当たらない、また、視覚障害のために授業中の学生の問題行動を注意できなかった点は、補佐員を活用することなどにより改善可能なものであり、授業を担当させず、学科事務に職務変更することは、権利の濫用で違法、無効だと主張した。
判決において、裁判所は山口准教授の主張を概ね認め、山口准教授は、短大側の行った、授業を担当させず、学科事務のみを担当させる等の業務命令に従う義務がないことを確認するとともに、授業はずしを受けた平成28年度、授業をすることができないことで、山口准教授が学問的研究を深め、発展させることができなかったことは不法行為を構成するとして、短大側に110万円の慰謝料の支払いを命じた。
2.授業はずしの職務変更命令の有効性について
この訴訟の中心的な争点は、短大が、山口准教授を授業からはずし、学科事務のみに専念させるとした業務命令が有効かどうかという点であった。
まず、裁判所は「原告(山口准教授)が本件短大で教授・指導することは、原告(山口准教授)が更に学問的研究を深め、発展させるための重要な要素といえるから、原告(山口准教授)が、本件短大において環境等の自己の専門分野等につき学生を教授・指導する利益(中略。以下…)を有することは否定できない」とした上で、短大側が山口准教授の授業はずしの理由として挙げた諸点については次のように判断した。
短大側は、山口准教授の授業内容は、視覚障害以前に、学生が学習成果を挙げる上で不十分な内容であると主張したが、これに対し、裁判所は「これまでの教員同士による授業参観の内容や、学科教員会議での検討内容等を踏まえても…、視覚障害以前に、原告(山口准教授)の資質、能力に根本的な問題があることを指摘された形跡や、それをうかがう事情は見当たらないし、本件学科内で実施されている授業アンケートの結果からも…、原告(山口准教授)の授業は学生に一定程度支持されていたことが認められるから、原告(山口准教授)の授業内容が、…学生が学習成果を挙げるのに不十分な内容であつたとは認められない」として、山口准教授の資質、能力が教員として十分であったことを認定した。
次に、授業中の学生の飲食や無断退室等の問題行動については、「今後、原告(山口准教授)が…全授業につき視覚補助を受けるとともに、被告(短大)と協議するなどして、有効、適切な視覚補助の在り方に改善すれば、原告(山口准教授)の授業の一部にみられた学生の問題行動については対応可能と認められる」、「むしろ望ましい視覚補助の在り方を本件学科全体で検討、模索することこそが障害者に対する合理的配慮の観点からも望ましいものと解される」として、山口准教授が、視覚障害のために学生の問題行動を注意できなかったという事実はあるものの、それらは、短大側の合理的配慮によって解決できる問題であるとした。
そして、これを踏まえ、「被告(短大)が本件職務変更命令の必要性として指摘する点は、あったとしても被告(短大)が実施している授業内容改善のための各種取組等による授業内容の改善や、補佐員による視覚補助により解決可能なものと考えられ、本件職務変更命令の必要性としては十分とはいえず、本件職務変更命令は、原告(山口准教授)の研究発表の自由、教授・指導の機会を完全に奪うもので…原告(山口准教授)が学生を教授・指導する本件利益を有することにかんがみると、原告(山口准教授)に著しい不利益を与えるもので、客観的に合理的と認められる理由を欠くといわざるを得ない。そうすると、本件職務変更命令は、権利濫用であり無効と解するのが相当である」と結論付けたのである。
3.本判決の評価
全体としてみれば、裁判所は、障害を持つ労働者が、障害のために担当している職務が十分に行えないとしても、それが合理的配慮によって克服可能であれば、雇用主はまずその配慮を行うべきであり、雇用主が、そのような配慮を行わずに、一方的に労働者を単純作業などに職務変更するならば、それは権利濫用となるという考え方を示した判決だと評価することができる。
障害者差別解消法、改正障害者雇用促進法が施行されて1年がたったが、「結局社会は何も変わっていない」という声をよく耳にする。しかし、この判決は、本欄のタイトルである「共生社会の足音」が確かに近づいてきていることを感じさせてくれる。時代は確実に共生社会に向けて動き始めているのである。
付記:4月3日、岡山短大は、この判決を不服として広島高裁に控訴した。引き続き、読者の皆さんには山口准教授へのご支援をお願いいたします。