コラム

コロナ禍の中で始まった同一労働同一賃金の光と陰

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2020年12月号掲載

1.はじめに

新型コロナで明け、新型コロナに暮れようとしている2020年だが、労働法の分野では、障害者雇用にも影響を与える可能性のある「同一労働同一賃金」に関する大きな法改正が行われ、また、注目の最高裁判決が出された年でもあった。

法定雇用率の引き上げや障害者雇用に対する社会の意識の変化を受け、近年、数としては増加している障害者雇用だが、依然として、障害者の所得水準は健常者に比べてかなり低い。厚労省の平成30年度障害者雇用実態調査では、身体障害者の平均賃金は月額215,000円、フルタイム労働でも248,000円に留まり、賃金センサス(賃金構造基本統計調査)の同年度の全労働者の平均賃金(決まって支給する現金給与額)306,200円とは大きな開きがある。

所得格差の背景には、雇用主が障害者の能力を十分に生かし切れていないなど様々な要因があるが、私は、その大きな理由の一つが、障害者の「非正規化」にあるのではないかと考えている。私の周囲でも、事務系の職種であれ、ヘルスキーパーであれ、企業に就職した視覚障害者の友人は、パラリンピックのメダリストなどの例外的なケースを除けば、ほとんど契約社員やアルバイトといった非正規雇用である。日本の企業では、正社員に比べて契約社員やアルバイトなどの非正規社員の賃金は低く抑えられており、障害者雇用の「非正規化」が賃金の伸び悩みにつながっているのではないだろうか。

2.同一労働同一賃金のルール

本年4月、大企業について「改正パートタイム・有期雇用労働法」が施行され、この中で同一労働同一賃金の原則が定められた(中小企業への適用は2021年4月1日から)。

同一労働同一賃金とは、パート社員、契約社員、派遣社員などの非正規社員について、正社員と比較して不合理な待遇差を設けることを禁止するルールをいう。

同一労働同一賃金という言葉からは「同じ仕事をしていれば同じ賃金」というシンプルな印象を受けるが、我が国の場合はもう少し複雑である。業務の内容、業務に伴う責任の程度、配置変更の範囲、その他の事情を考慮して、正社員と非正規社員の間に不合理な待遇差を設けてはいけないとされている(パート・有期労働法8条)。つまり、仕事内容だけでなく、会社組織における位置づけなども考慮して、正社員と非正規社員の間に説明のつかない格差をつけてはいけないというのである。

3.本年10月に出された注目の最高裁判決

同一労働同一賃金のルールの具体的な内容を明らかにするものとして、本年10月、3つの注目すべき最高裁判決が下された(正確には5つだが、10月15日の複数の判決はいずれも日本郵便を相手取ったものなので、まとめて1つの判決とする)。

以下、それぞれの判決を簡単に紹介する。

  1. 10月13日に判決が出された大阪医科薬科大学事件では、アルバイトの大学事務職員に対して、正社員に支給されている賞与(ボーナス)が支給されるべきかが争われたが、最高裁は労働者の請求を退けた。
  2. 同日に判決が言い渡されたメトロコマース事件では、東京メトロの駅売店の販売員の契約社員について、正社員と同様に退職金が支給されるべきかが争われたが、最高裁はこちらでも労働者の請求を退けた。
  3. 同月15日に判決が下された日本郵便事件では、郵便局に勤務する契約社員について、正社員には与えられている扶養手当(家族手当のようなもの)、年末年始勤務手当、夏季冬季休暇、祝日給、病気休暇、住居手当を与えるべきかが争われたが、最高裁は、労働者の請求を認め、これらは契約社員にも与えるべきだと判断した。

それぞれの事件で、正社員と非正規社員の仕事内容等の類似性、勤務年数、賃金体系などが異なるため、単純に定式化することはできないが、最高裁としては、同一労働同一賃金のルールの下、正社員に与えられている各種手当や休暇については非正規社員にも与えなければならないが(③事件)、一方で、賞与や退職金など、基本給と連動している賃金については、非正規社員に支給しないことについて、企業側に相当な裁量を認めるという考え方をとっているものと考えられる(①及び②事件)。

なお、賃金の中で最も大きな割合を占める基本給については、最高裁の明示的な判断は出されていないが、メトロコマース事件(②事件)の控訴審で、駅売店で販売業務に従事していた勤続10年前後の契約社員の基本給が、正社員の72〜74%程度であった事案について、その差は不合理ではないと判断されている。基本給の定め方はそれぞれの企業によって千差万別であり、人事制度の根幹ともいえるものなので、非正規は正社員の半分などといった極端なケースを除けば、一定の格差があったとしても違法とはされていない。

4.障害者雇用促進法と同一労働同一賃金

障害者雇用と同一労働同一賃金の関係では、もう一段深い考慮が必要だ。

障害者雇用促進法により、雇用主には、障害を持つ社員に対し合理的配慮を提供する義務が課されている。障害を持つ非正規社員が、画面読み上げソフトなどの支援機器や職場介助者等のサポートを受けて正社員と同様の仕事を行っている場合には、その状態をもって同一労働を行っていると評価されなければならない。つまり、障害のある非正規社員については、合理的配慮が提供されることを前提として、その上で正社員と同一の労働といえるかどうかを問題にしなければいけないのである。

5.結び

今、皆さんが非正規で働いていて、正社員との間に手当てや休暇の格差があるならば、労働組合や労基署に相談してみてほしい。一気に待遇格差を解消できる可能性がある。もし賞与や退職金がほしい場合には、少し大変だが、正社員の登用試験に挑戦してみてはどうだろう。我々、働く障害者の道は、毎日が「パラリンピック」のように挑戦の連続なのだ。