コラム

改正障害者雇用促進法のガイドラインについて 1

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2015年4月号掲載

1.はじめに

2016年1月1日、障害者差別解消法(以下、「差別解消法」という)と改正障害者雇用促進法(以下、「雇用促進法」という)が施行される。これにより、国などの行政機関、および企業などの民間事業者は、障害者を不当に差別的に取り扱うことが禁止され、障害者への合理的配慮の提供が求められることになる。

もっとも、これらの法律により大きな枠組みは定められたが、雇用、交通、教育など個々の分野において、具体的にどのような行為が不当な差別的取り扱いとなるのか、また、障害者に対してどのような配慮を提供する必要があるのかなどは未だ明らかではない。現在、各分野を所管する省庁では、「対応要領」や「対応指針」というガイドラインの策定作業が進められており、これらのガイドラインで、私たちの実際の生活の場面で法律に定められた差別禁止などの規定がどのように適用されるのかが具体的に示されることになる。

この連載では、法施行によって私たちの生活がどう変わるのか、変えていかなければならないのかを考えつつ、近づいてくる共生社会の足音が感じられるようなエッセイをお届けしたいと思っている。

2.雇用促進法のガイドラインについて

本年3月2日、厚労省から、雇用促進法の規定を具体化する差別禁止のガイドラインと合理的配慮のガイドラインが公表され、雇用の分野において、事業主が障害者に対して行なってはいけない差別や、行なわなければいけない配慮などが示された。今回はこのうち、差別禁止のガイドラインの内容について紹介する。

このガイドラインの冒頭には、基本的な考え方として、全ての事業主は労働者の募集・採用に際し、障害者に対して障害者でない者と均等な機会を与えなければならないこと、そして、賃金の決定・教育訓練の実施・福利厚生施設の利用その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由として不当な差別的取り扱いをしてはならないことが掲げられている。

そして、労働者を募集・採用する際、事業主が次のような行為を行なうことが禁止されている。

  1. 障害者であることを理由として、障害者を募集又は採用の対象から排除すること。
  2. 募集又は採用に当たって、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと。
  3. 採用の基準を満たす者の中から障害者でない者を優先して採用すること。

ところで、労働者の募集に際して、一定の能力や資格を有していることが受験の条件とされることがある。たとえば、運転免許証を持っていることが条件となっていることは珍しくない。また、2013年度に全国中核市以上の規模の自治体で実施された障害者対象の職員採用試験のうち、実に51パーセントの自治体では、「活字印刷文による出題に対応できる人」を受験条件にあげている(障害者欠格条項をなくす会編『地方公共団体の障害者職員受験資格と合理的配慮の想定について』より)。受験に際し、このような条件が付されることで、多くの視覚障害者は社会参加の機会を奪われてきた現実がある。

この点について、ガイドラインでは、「当該条件が当該企業において業務遂行上特に必要なものと認められる場合には、障害者であることを理由とする差別に該当しない。一方、募集に当たって、業務遂行上特に必要でないにもかかわらず、障害者を排除するために条件を付すことは、障害者であることを理由とする差別に該当する」としている。そのため、もっぱら内勤が中心の事務員の採用などに際して運転免許証の保持を条件とすることは差別だといえそうである。また、公務員試験に関してみれば、公務員の職務は多岐にわたっており、活字文書が読めなくても音声パソコンなどを使うことで行なうことができる仕事も少なくないことから、公務員採用試験において、一律に前記の「活字印刷文による出題に対応できる人」を条件とすることは、違法な差別になると考えられる。

このガイドラインによって、雇用の全ての段階において障害者に対する差別が禁止され、前記のように受験条件にも一定の制約が課せられることになった。このことは、障害者の社会参加を考える上での重要な一歩である。

3.制度改正の向こう側

このように、法改正によって障害者に対する不当な差別や排除が禁止されたわけだが、現在、雇用における差別は、一部で新たな形態を取りつつある。

たとえば、ある企業は重度の障害者を次のような条件で募集していた。仕事は、午前9時と午後5時に自宅から担当者にメールを送ることと、週に一度、A4サイズ1枚の報告書(内容は自由)を提出することのみ。

はたしてこれが仕事と呼べるだろうか。この企業は、障害者を法定雇用率達成のための数合わせの道具としか考えていないのである。制度が変わっても、障害者=能力がない者という見方は我が国の社会の中に根深く残っている。

かかる偏見を変えていくためには、健常者の側から歩み寄るだけでなく、障害者の側からも、勇気を持って果敢に踏み出すことが必要である。雇用促進法の改正は、これから一歩を踏み出す私たちの背中を押す追い風である。