コラム

第10回 障害者雇用こそ日本経済復活の鍵!

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2016年1月号掲載

1.はじめに

厚生労働省から、2015(平成27)年6月1日時点での民間企業および国などの公的機関における障害者の雇用状況が発表された。

それによると、障害者雇用義務を負担する民間企業(常時雇用する社員が50人以上の規模の企業)で働く障害者は、45万3133.5人となった。そのうち、国などの公的機関で働く障害者は、6万5373人いるとのことである、これら両者を合計すると51万8506.5人という数字になる。

厚生労働省では、「雇用障害者数、実雇用率共に過去最高の数字であり、障害者雇用は着実に進展している」と大いに胸を張っている。

しかし、ちょっと待ってほしい。日本には、障害者は、身体障害、知的障害、精神障害併せて合計約787.9万人いるといわれている。すると、障害者の中で、企業などに雇用されて働くことができているのは、障害者のうちの約6%にすぎないということになる。

これは子供や高齢者も含む障害者全体に対する比率だが、あまりにも少ない数だといわざるを得ないのではないだろうか。

しかし、ここで、あまり企業の義務を強調しすぎたり、企業を批難するだけでは、障害者雇用を拡大することには繋がらない。営利を追求するのが企業の中心的な目的である以上、私たちは企業に対し、障害者雇用のメリットをわかりやすく示す必要がある。

そこで、今回の連載では、企業が思わず障害者を雇いたくなるようなメリットを私なりに考えてみたい。

2.企業を発展させるために必要な3つの「T」

米国の社会学者リチャード・フロリダは、創造的な活動が行なわれるために必要な環境の条件は、次の3つの「T」だと説いている。

それは、テクノロジー(技術)、タレント(人材)、トレランス(多様性に対する寛容さ)だというのである。

彼の研究は、都市環境を念頭に置いたものだが、この基本的な考え方は、おそらく1つの企業の内部組織にも当てはめることができると思う。

日本はもともと国民全体の教育水準が高く、日本の多くの企業には、すでに才能ある人材(タレント)がいて、高い技術力(テクノロジー)も備えている。なのに、日本企業はバブル崩壊後の長い閉塞感から未だ脱することができたとは言い難い状況にあるのはなぜなのか。

それは企業が、創造性を発揮して新たな商品やサービスを生み出し、もう一歩発展するために必要なエッセンス、つまりは「多様性に対する寛容さ」(トレランス)がまだ足りていないからではないだろうか。

そして、日本企業の中に、この多様性に対する寛容さの種をまく最も有効な方法の1つが「障害者雇用」だと私は考えている。

3.企業にとっての障害者雇用の本当の意義

障害者雇用は、よく企業イメージの向上やCS R(企業の社会的責任)の文脈で語られることが多い。まだ多くの企業は、障害者雇用がもたらす、多様性に対する寛容さの醸成というメリットが十分に分かっていないように思われる。

これまで、日本の企業では、割り振られた仕事をきちんとこなし、求められる成果を機械のように上げる社員がよい社員だった。そして個性的な社員、周囲の手をわずらわせる社員には不寛容なところがあった。職場がギスギスし、メンタル面で不調を感じる社員が後を絶たないのも、この不寛容によるところが大きいのではないだろうか。

でも、そのような職場環境では、障害者雇用はうまくいかない。障害者は、多かれ少なかれ、個々の障害の特性のため、他者からのサポートを必要とする。視覚障害がある社員を雇えば、他の社員による書類の読み上げや移動の介助が必要となる場合がある。精神障害のある社員を雇えば、彼らの精神状態を理解するために一定の努力が必要となるし、こまめな休憩時間の設定も必要だ。

障害者を雇い、一緒に仕事をしていくためには、社内の風土をガラリと変える必要がある。職場全体に、社員同士がお互いを認めあう風土、時にはお互いに迷惑を掛けあいながらも支えられることができる風土、そして失敗も成功も社員が共に分かち合えるような企業風土を醸成することが求められている。

障害者と共に働くことは、必然的に一定の非効率やある種の摩擦を内包する。しかし、それらすべてを認めることで、企業は、結果的に、多様性に対して寛容な組織になることができると思うのである。

4.日本経済復活の鍵としての障害者雇用

ところで、2016(平成28)年4月から、障害のある社員の雇用主は、その社員の障害に応じた合理的配慮を提供する義務を負うことになる。これも、日本の会社組織のあり方を変革する、いいきっかけになるはずだ。企業の中で、雇用主による何らかの配慮を必要としている社員は、障害者のみではない。企業の中には、障害の有無のみならず、性別や国籍、体力や精神の強弱など、多様な特徴を持った社員がいる。

それぞれの社員には、画一的ではない様々なニーズがある。企業が合理的配慮について考えることは、実は、企業が、どんな立場の社員にとっても働きやすい組織に脱皮するチャンスとなる可能性を秘めているのである。障害のある社員が働きやすい企業は、障害のない社員にとっても働きやすい企業に違いない。

改正障害者雇用促進法の理念が社会に広く浸透することによって、企業などで雇用され働く障害者が増え、加えて、日本企業の中に、多様性に対する寛容さが広がっていくこと、そして、日本の企業がより創造性に満ちた活力ある組織になっていくことを期待したい。

障害者雇用を真剣に考えることこそ、まさに日本経済復活の鍵なのである!