コラム

第11回 盲導犬とどこにでも行ける社会にするために

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2016年2月号掲載

1.はじめに

視覚障害者に関係する差別の中で、現状、おそらく、最も深刻なものは、盲導犬利用者に対する差別ではないだろうか。

昨年も、室蘭市で視覚障害者団体が卓球大会を開催しようとしたが、盲導犬同伴で宿泊できるホテルの確保ができないために、大会を中止せざるを得なくなったというニュースが報道された。しかし、これは盲導犬使用者が直面している差別の氷山のほんの一角に過ぎない。

私の妻は全盲で、もう20年ほど盲導犬を使っている。私が盲導犬を連れた妻と外出すると、時々、飲食店やタクシーなどで、「犬はちょっとご遠慮ください」などと言われて入店や乗車を拒否されてしまうことがある。そのため、外で食事をしたり、タクシーに乗ったりするたびに、「今回は大丈夫かな」と、私も少し緊張してしまう。

読者の皆さんもご存じの通り、我が国では、2002(平成14)年に「身体障害者補助犬法」という法律が作られた。

この法律では、区役所などの行政機関、電車、バス、タクシーなどの公共交通機関、飲食店やホテルなど不特定かつ多数の者が利用する施設の管理者は、身体障害者補助犬の同伴により、当該施設などに著しい損害が発生し、または当該施設などを利用する者が著しい損害を受けるおそれがある場合、その他やむを得ない理由がある場合以外は、補助犬同伴を拒否してはならないと定められている。

ここで、入店などを拒否できる場合として、「著しい損害」が生じる恐れがある場合と限定されている以上、相当例外的な場合を除き、原則的に不特定多数の人が利用する場所では、盲導犬の同伴を認めなければならないはずである。たとえば、飲食店で、一部の客が犬をいやがっているだけのような場合は、入店拒否をすることは許されない。

しかし、盲導犬を同伴しての入店拒否や宿泊拒否は枚挙にいとまがない。障害者差別解消法施行を機に、現状を変えていくことはできないだろうか。そのためにはいったい、何が必要なのだろうか。

2.「不当な差別的取り扱い」

障害者差別解消法では、国や地方公共団体などの行政機関および民間事業者は、障害者を、正当な理由なく、障害を理由に「不当な差別的取り扱い」をしてはならないと定められている。

盲導犬を同伴しての飲食店への入店やホテルへの宿泊を拒否することは、障害を理由とするサービスの提供拒否であり、ここにいう「不当な差別的取り扱い」となる可能性がある。

そこで問題となるのが、飲食店やホテルがサービス提供を拒否することに「正当な理由」があるといえるかどうかである。

障害者差別解消法を具体化するガイドラインによれば、サービス拒否に「正当な理由」があるとされるのは、そのようなサービス拒否が必要なことが、当該施設の管理者の主観や偏見によるのではなく、客観的な事実によって裏付けられ、第三者の立場から見ても納得を得られるような場合である(厚生労働省「障害者差別解消法衛生事業者向けガイドライン」参照)。

たいていの場合、入店拒否などをする店は、「犬を入店させることは衛生的に問題がある」「犬アレルギーの人がいたら困る」などという理由を挙げて盲導犬の同伴を拒否する。

しかし、そもそも、これは、上述した「客観的な事実」に裏付けられた主張だといえるのだろうか。

ここで参考になる事例がある。アメリカで、視覚障害のある男性が、盲導犬を連れてビール工場の見学ツアーに参加しようとしたところこれを拒否された。この男性が、盲導犬を同伴して見学ツアーに参加できないことはADA法(障害のあるアメリカ人法)違反であるとして起こした裁判で、裁判所は、盲導犬を入場させると衛生的に問題があるなどのビール会社の主張を排斥し、ビール会社に対して、可能な限り工場見学ツアーにも盲導犬を同伴できるようにルールを見直すように命じた(ジョンソン対ギャンブリナス社/スポッツル醸造所事件)。

アメリカでは、飲食店やホテルよりも厳しい衛生管理が求められるビール工場においても、盲導犬の同伴が認められた。すなわち、きちんと訓練され、清潔にケアされている盲導犬を入場させることは、高度の衛生管理が求められる場においても問題とならないとされたのである。

この事例は、日本の飲食店などの言う、盲導犬を入店させることは衛生的に問題があるとか、犬アレルギーの客に影響があるなどという主張は、客観的な事実に基づかない偏見に過ぎないことを示唆する。

このような偏見を打ち破るためには、一度、国などが中心となり、盲導犬について、飲食店の他の客の健康への影響の有無などを科学的に調査し、それを広く公表することが必要なのではないか。国には、このようなことこそ、障害者に対する差別解消に向けた啓発活動として行なってほしいと思うのである。それと共に重要となってくるのが、飲食店などと視覚障害者の間に立って紛争解決の援助をしてくれる行政などの相談、紛争解決の体制の充実である。

これまで、盲導犬が入店拒否されたとしても、視覚障害者は多くの場合、どこにも相談できずに泣き寝入りをするしかなかった。現状を変えていくためには、このような視覚障害者の悩みを受け止め、中立的な立場で飲食店などと交渉してくれる第三者の存在である。

障害者差別解消法では、国や地方自治体に、障害者が差別された場合の相談体制の整備を求めている。今年4月からの施行には間に合わないとしても、早急にこの相談、紛争解決の仕組みを整備するよう求めたい。

3.終わりに

近い将来、日本も、盲導犬使用者がどこに行っても断られることのない寛容な社会になればと切望する。障害者差別解消法の施行はその変化を強く後押しするはずである。