コラム

第39回 視覚障害の山口准教授 控訴審でも勝訴!

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2018年6月号掲載

1.本件のいきさつと判決の概要

3月29日、広島高裁岡山支部において、岡山短期大学(岡山県倉敷市)に勤務する山口雪子准教授が、同短大に対し、「視覚障害のために十分な学生の指導が行えないなどの理由で授業を外され、事務職に職務変更されたこと」、それに加え、「従前使用してきた研究室を明け渡し、研究室として使用するには不適当なキャリア支援室に移るよう命じられたこと」は違法だとして、これらの業務命令の無効確認等を求めて起こした訴訟の控訴審判決が言い渡された。

山口准教授は、平成11年、岡山短期大学を設置運営する学校法人である原田学園との間で大学教員契約を締結し、講師を経て、平成19年、短大幼児教育学科の専任准教授に任じられ、授業・研究を行ってきた。その後、網膜色素変性症のため視覚障害が進行し、数年前からは文字の判読も困難になったが、私費で補佐員を雇用するなどして同短大幼児教育学科において「環境」や「卒業研究」などの科目を担当してきた。

視覚障害が進行したここ数年、山口准教授に対してはたびたび退職勧奨が行われたが、山口准教授がこれを拒否していたところ、短大は、平成28年2月5日、山口准教授に対し、授業を割り当てず、学科事務のみを担当させる旨の事務分掌に基づく職務変更を命じ、あわせて、それまで山口准教授が使用してきた研究室を明け渡し、学生の就職支援等に用いられるキャリア支援室に移るように指示した。

平成28年3月、山口准教授はこれらの業務命令は権利の濫用であり違法、無効であるとして、岡山地裁倉敷支部に提訴した。

平成29年3月28日、岡山地裁において言い渡された判決では、裁判所は山口准教授の主張を概ね認め、山口准教授が、短大側の行った、授業を担当させず、学科事務のみを担当させる等の業務命令に従う義務がないことを確認するとともに、授業外しを受けた平成28年度、授業をすることができないことで、山口准教授が、学問的研究を深め、発展させることができなかったことは不法行為を構成するとして、短大側に110万円の慰謝料の支払いを命じた。

しかし、岡山短大側はこの判決を不服として、同年4月3日、広島高裁に控訴していた。

今回の控訴審の判決においても、裁判所は、山口准教授の主張を概ね認めつつ、一審岡山地裁の判断を一部変更し、山口准教授が短大に対し、「キャリア支援室において学科事務に従事する労働契約上の就労義務のないことを確認する」と判示するとともに、短大の行った職務命令は、山口准教授を「全ての担当職務から外し、研究室として利用することが不適当なキャリア支援室での就業を命じるものであって、業務上の必要性を欠いており、かつ、労働者に対する処遇として合理性を欠くものであり、…(山口准教授に対し)通常甘受すべき程度を著しく超える精神的苦痛を負わせるものであると認められる」として短大に110万円の慰謝料の支払いを命じている。

2.短大による業務命令の違法性

この訴訟の争点は、短大が、山口准教授を授業から外し、学科事務に専念させるとした業務命令(本件職務変更命令)が有効かどうか、および、山口准教授に対し、研究室を明け渡し、キャリア支援室に移るように命じる業務命令(本件研究室変更命令)が有効かどうかという点であった。

これらの争点について、裁判所は、まず、「本件職務変更命令は…(短大の就業規則に基づき)職務の内容を変更するものであり、本件研究室変更命令は、同規則及びこれに基づく本件職務変更命令を前提として、勤務場所の変更を命じるものであるから、これらは全体として配転命令の性質を有するものというべきである」とする。

そして、「配転命令については、業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても不当な動機・目的をもってされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合には、無効になるというべきである」という判断基準を示す。

そのうえで、このような判断基準を踏まえ、次のように判断した。

短大は、これらの業務命令の必要性として、視覚障害の進行した山口准教授が、授業中、学生の飲食、睡眠、無断退室などを注意できなかったなどと主張したが、「(短大が)本件職務変更命令の必要性として指摘する点は、まずもって、…短大が実施している授業内容改善のための各種取組み等による授業内容の改善や、補佐員による視覚補助により解決すべきものであり、現時点において、これが解決不可能なものであると認めることはできない」として、山口准教授が、視覚障害のために学生の問題行動を注意できなかったという事実はあるものの、それらは短大側の合理的配慮によって解決すべき問題であり、学科事務への職務変更を正当化するものではないとした。

さらに、短大が研究室を明け渡して移動するように命じているキャリア支援室は、主に学生の就職支援業務のために用いられ、多数の学生が出入りする場所であり、「それのみでは研究室として使用することが不適当な場所というべきであり…(山口准教授が)キャリア支援室のみを研究室として使用することは困難であると認められるから、本件研究室変更命令は、それ自体としても合理性を欠くものというべきである」とした。

そして、結論として、「これらの一連の業務命令を全体としてみると、実質的には、…(山口准教授を)全ての担当職務から外し、研究室としては不適当なキャリア支援室での就業を命じるものであって、配転命令である本件職務変更命令及び本件研究室変更命令は、業務上の必要性を欠いており、かつ、労働者に対する処遇としても合理性を欠くものであって、…(山口准教授に対し)通常甘受すべき程度を著しく超える精神的苦痛を負わせるものである。…本件職務変更命令及び本件研究室変更命令は、権利濫用に当たり、いずれも無効というべきものである」と判断したのである。

3.司法の限界と世論の重要性

以上のように、控訴審においても山口准教授は実質的に勝訴した。地裁の判決時にも述べたが、一連の判決は、障害を持つ労働者が、障害のために担当している職務が十分に行えないとしても、それが合理的配慮によって克服可能であれば、雇用主はその配慮を行うべきであり、そのような配慮を行わずに、一方的に労働者を単純作業などに職務変更するならば、それは権利濫用となるという考え方を裁判所が示したと評価できる。

これに対し、短大は、4月9日、最高裁に上告し、依然として争う姿勢を崩していない。

もっとも、最高裁は、基本的に、憲法違反か過去の判例違反の場合等極めて限定された場合しか実質審理に入らない。そして、今回の控訴審判決には、そのような憲法違反や判例違反の点は全く見いだせないことから、最高裁で結論が覆る可能性はほとんどないものと思われる。

しかし、わが国では、労働者には、いわゆる「就労請求権(職場で特定の仕事をすることを求める権利)」は認められていないため、裁判所の判断として、「山口准教授に講義をさせなければならない」という判断が示されることはないのが現実である。これを本件に当てはめれば、短大は、給料さえ払っておけば、山口准教授に定年まで講義を持たせず、いわば「飼い殺し」にできるということになってしまう。これが司法の限界である。そこから先は、短大の不当な行為は絶対に許さないという世論の力が重要だ。控訴審判決を追い風に、さらに山口准教授への支援の輪を広げていかなければならない。その意味では、本件はこれからが正念場といえるかもしれない。