コラム

第45回 障害者対象の国家公務員採用試験が始まる

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2018年12月号掲載

1.はじめに

人事院は、中央省庁の障害者雇用水増し問題を受け、障害者に限定した「国家公務員 障害者選考試験」を、2019年2~3月に実施することを発表した。国として初の試みである。対象は、障害者手帳や障害があることを示す診断書を所持し、1959年4月2日以降に生まれた人。申し込みは12月4日から14日まで郵送で受け付ける。

1次試験は、公務員として必要な教養や知識を問う選択問題と作文。2次試験は各省庁による面接で、原則として今年度内に採用する予定だという。視覚障害者に対する受験上の配慮としては、点字受験(音声パソコン併用可・試験時間1.5倍)など3つの方法があるが、日本盲人会連合(竹下義樹会長)は「極めて不十分」として、点字受験以外でも音声パソコンとの併用を認めることなど5項目の改善を求める声明文を提出した。

採用予定数は全体で676人。職務の内容は、主に各省庁の出先機関における、書類の整理や一般事務などの「定型的事務」とされているので、高卒者を対象とする国家公務員一般職と同等程度の仕事が想定されているものと思われる。

このような試験枠を設けることにより、これまで、健常者と同条件での試験では採用されにくかった障害者を、積極的に採用しようとする国の姿勢は評価できる。しかし、あくまで国家公務員一般職相当の職務が想定されているのみで、総合職(いわゆるキャリア)に障害者枠が設けられないことは問題である。障害者が国の政策立案に直接関与し、霞が関の中枢で能力を発揮することを可能にする独自のルートを作るべきだと考える。

また、何よりも、試験に合格した障害者の職場定着をいかに図るかが喫緊の課題となる。本稿を執筆するにあたり、公務員や民間企業の社員として事務職で働く何人かの視覚障害者に話を聞いた。そこから、視覚障害者の職場定着のためには、「適切な業務の割り当て」、「合理的配慮の提供」、「公正な評価の視点」が重要だと気づかされた。以下、これらの点について、特に公務員の場合に考えなければならない課題を論じてみたい。

2.適切な業務の割り当てについて

視覚障害者が職場でその能力を生かして活躍するために、まず重要なのは、障害に応じた職務を、使用者が視覚障害者に適切に割り当てるということである。

今回話を聞いた弱視の公務員Aさんは、部内のファイルの整理や不要な資料の廃棄の仕事を割り当てられたが、ルーペを使っても古い書類の文字は読みづらく、命じられた職務の遂行がほとんど不可能な状態であったという。また、ある民間企業で在宅勤務を行なっている全盲のBさんには、するべき業務がない。彼女の仕事は、朝9時と夕方5時に、始業終業のメールを会社へ毎日送ることと、A4サイズのレポート(テーマは自由)を週に1枚提出することだけである。

このような、いわば仕事のミスマッチや「飼い殺し」のような状態を避けるために、視覚障害があっても遂行可能である適切な内容と分量の仕事を割り当てることが使用者に求められるのだが、実際は専門的な知識やノウハウがなければ難しい。

方法としては、ジョブコーチなどの専門家に、職務の割り当てや必要な訓練について支援してもらうことが有効である。しかし、「誰もが生き生きと働ける職場を目指して―公務部門における障害者雇用ハンドブック―」(内閣府ホームページ)によれば、「ジョブコーチの派遣の対象となるのは、現行制度上、障害のある人のうち雇用保険に加入している者に限られる」ため、常勤の公務員はその対象とはならないとのことで、現行制度ではジョブコーチを使うことができないのである。

しかし、これまで障害者と共に働いた経験がなく、業務分担や能力開発のノウハウを持たない部署に障害のある公務員が配置された場合、専門家による支援を受けずに職場定着を図ることは相当な困難が予想される。

3.合理的配慮の提供について

次に、障害者が職場でその能力を発揮するために重要なのが、援助者や機器類などの合理的配慮である。

公務員として働く全盲のCさんの職場にはイントラネットの業務システムが導入されているが、このシステムは画面読み上げソフトで読み上げを行なうことができない。そのため、Cさんは、職場でインターネットの閲覧や回覧された文書の確認など、業務上重要な情報にアクセスできない状態であるという。イントラネットの業務システムは、多くの職場で、仕事をする上で不可欠なものとなりつつあり、画面読み上げソフトへの対応が合理的配慮のうえでも大きな課題である。

ところで、公務員の場合には、合理的配慮の提供に必要な財源が充分に確保されないことが危惧される。

国家公務員については、「障害者雇用促進法」ではなく「国家公務員法」第71条の「能率」の条文により、国に合理的配慮の提供義務が課されていると解釈されるが、はたしてきちんとした予算措置に基づき、障害の特性に応じた充分な合理的配慮が提供されるのかは不確実である。障害のある労働者に合理的配慮を提供するための各種助成金は、法定雇用率未達成企業から徴収した納付金がその財源となっているため、公務部門ではそれら助成金を使うことができない。そのため、独自の財源を確保する必要があるが、部門ごとに予算が決まっている中、合理的配慮の費用を確保するための制度的保障はないのが現状である。

4.公正な勤務評定について

公務員は、毎年度、業務成績がAからEの5段階で評価され、それによって昇給の幅が決まり、管理職への登用にも大きく影響する。視覚障害者は、健常者と同じ量、正確性をもって事務仕事をするのが極めて困難であるにもかかわらず、勤務評定に際し、視覚障害者も健常者との比較で、いわゆる相対評価を受けるとすると、常に不当に低い評価となり、昇給や昇進が遅れる恐れがある。

ある民間企業で働く弱視のDさんは、画面拡大ソフトを使いながら、多数のデータを参照して資料をまとめる仕事を行なっているが、資料全体の確認が難しいためにどうしても見落としが生じ、上司からしばしば「適当に仕事をするな」と叱責を受けてしまうと話してくれた。

ともすれば健常者への逆差別だという議論になるが、やはり障害者の勤務評定に当たっては、その障害者の障害の程度を考慮し、いわゆる絶対評価により業績を評価することが、健常者と障害者が共に働くうえで必要な実質的平等を確保するための措置だと理解しなければならない。

5.終わりに

以上のように、様々な課題はあるものの、国家公務員への障害者の積極的な採用は、共生社会を一歩進める大きなチャンスであることは間違いない。これまで、障害者と接したことのない公務員が、障害のある同僚に接すると、最初のうちは様々な摩擦があるだろうが、単に摩擦で終わらせることなく、そこで対話を行ない、お互いへの理解を深めるきっかけとしていく。そうすれば、国の政策を立案し実行する公務員の中に、多様性に対する真の理解が深まるはずである。

私は、本稿で論じたような課題を解決するためには、各省庁から独立した障害者支援の専門機関をつくり、当該機関が各省庁の障害者雇用の状況をチェックし、独自の予算と人材をもって、ジョブコーチを派遣したり、合理的配慮提供のための費用を支出するなどの仕組みを検討すべきだと考える。

新たな採用試験の実施を皮切りに、単に数合わせで終わらせることなく、障害者がやりがいをもって公務員として活躍できる仕組みについても、真剣に議論を始めなければならない。