コラム

第62回 新型コロナ社会を生き抜くために知っておきたいこと

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2020年6月号掲載

1.はじめに

新型コロナウイルスの流行は少しずつ収まりつつあるようだが、外出自粛などによる経済への影響がどの程度深刻なものになるのか、また、いつまで続くのかは未だ見通せない。

とりわけ、多くの視覚障害者が従事している、いわゆるあはき(あんまマッサージ、鍼、灸)業は、施術者と患者の「密接」が避けられず、今年の4月以降、治療院に患者がほとんど来なくなってしまったという話が聞こえてくる。

また、企業で働く視覚障害者も、テレワークや自宅待機が長引き、これから、自分の雇用がどうなってしまうのか、不安な気持ちでいる人が少なくないようだ。

今回のエッセイでは、このような状況下、視覚障害者が経済的に生き延びるために、知っておいてほしい2つのことをお伝えすることにした。どうか、今、ぎりぎりの状況で頑張っている皆様に届きますように。

2.持続化給付金の受け取り方と問題点

(1)持続化給付金とは?

ニュースなどでもご存じのように、政府は、新型コロナウイルスの流行による営業自粛などのために収入が減少した事業者に対し、法人の場合は最大200万円、個人事業主やフリーランスの場合は最大100万円の「持続化給付金」を支給することを決定し、その受付が5月1日から始まっている。

持続化給付金の特設サイトによれば、申請から2週間程度で支給されるとのことであり、おそらくコロナ関係のあらゆる支援策の中で、現在、最も早くまとまった現金が手に入る制度だ。あはきの治療院等を経営している自営業の視覚障害者には、今を生き延びるためにぜひこの制度を使ってほしい。

(2)給付金が支給される条件

この給付金は、今年、前年の同月に比べて事業収入(売り上げ)が半分以下になった月が1カ月でもあれば受給の対象となる。そして、その、売り上げが半分以下になった月の売り上げの金額を12倍した金額と、昨年1年間の売り上げの差額が助成される(ただし、法人の場合は200万円、個人事業主などの場合は100万円が上限)。

(3)申請の方法

給付金の申請は、自宅などからインターネットを使って行うのが基本だ。インターネットでの申請ができない場合には、各都道府県に1カ所、ないし数カ所設けられた「申請サポート会場」で、電子申請の入力をサポートしてもらうこともできるが、そもそも会場の数が少ないうえに、完全予約制なので、こちらはある程度時間がかかることを覚悟しなければならない。

どちらの場合も、申請に必要な書類は次の4種類だ。

  1. 昨年度の確定申告書の「別表1」の写し(ただし受領印のあるもの。青色申告対象者は青色申告決算書の写しも必要)
  2. 売り上げが昨年の同月の半分以下になった月の1カ月の売り上げの額がわかる書類
  3. 身分証明書
  4. 自分の預貯金通帳のうち、通帳の表紙と、表紙をめくった1〜2ページ目の写し

このうち、②と③について説明すると、②の売り上げに関する書類としては、特に決まった書式はなく、たとえば、自分で「令和2年4月分売り上げ」」などと題してExcelで売り上げのあった日付と金額、4月分の売り上げの合計額を書いた表を作って提出するとか、同じ内容を手書きでノートなどに記入したものをコピーして提出することでもよいとのことである。

また、③の身分証明書については、運転免許証を持たない視覚障害者としては、マイナンバーカードか住基カードのコピー、または、パスポートか健康保険証のコピーに住民票を加えたセットを提出することになる(障害者手帳は有効期間が設けられていないので申請時の身分証明書には使えないようである)。

(4)健常者の手助けなしでは申請手続きが困難という問題点

自宅からインターネットで申請する場合は、持続化給付金の特設サイト(新しいウィンドウで開きます)にアクセスし、ID登録などを行った後、申請フォームに必要事項を記入し、必要書類の電子データを送信することになる。

問題となるのが、上の必要書類を、スキャナで読み取るかスマホのカメラなどで写して電子データにしなければならないということである。その作業さえ誰かに手伝ってもらえれば、視覚障害者も単独で給付金申請を行うことは可能であるが、確定申告書等は、あまり第三者に見られたくない書類であり、サポートをしてくれる人を探すことが難しいというのが、この給付金の視覚障害者にとってのハードルになる。

私としては、手遅れにならないうちに、全国の視覚障害者団体やあはきの業団体などが、この持続化給付金の申請手続きのサポートを始めるべきではないかと考えている。

3.退職届には絶対にサインしてはいけない

ここまで自営業者の皆さんにお伝えしたい「持続化給付金」の情報を書いてきたが、次に、民間企業などで働く視覚障害者に知っておいていただきたい知識について書くことにする。

現在、規模の大小を問わず多くの企業の業績が悪化し、すでにサービス業を中心にリストラに着手する企業も出始めているようだ。今後、もしかしたら皆さんも、「コロナで会社が立ちゆかないので退職届にサインしてほしい」などと言われてしまうかもしれない。

日本の労働法制では、たとえ企業の業績が悪くなったとしても、企業は簡単に社員をやめさせることはできない。いわゆる「整理解雇の4要件」といって、①人員整理の必要性があること、②解雇回避努力を尽くしたこと、③解雇の対象者の人選が合理的であること、④労働者との話し合いを持つなど、きちんとした手続きが踏まれていること、以上のすべての条件を満たさなければ解雇はできないのである。目下のコロナウイルス流行の社会情勢の中でも、企業はきちんと助成金などを活用して社員を守る努力を尽くさなければいけないし、危機に乗じて、気に入らない社員を狙い撃ちで解雇することも認められない。

企業の側も、このように整理解雇のハードルが相当高いことは知っているので、社員をやめさせたいと思う場合には、できるだけ自己都合による退職の形にしたいと画策する。そのため、「会社の厳しい状況を分かってほしい」とか、「あなた自身の将来のためでもある」などとして、精神的なプレッシャーをかけ、退職届にサインをさせようとするかもしれない。

しかし、そのような場合にも、安易にサインをしてはいけないというのが私からのアドバイスだ。それにはいくつか理由があるが、そもそも、それが、真に経営上やむを得ない働きかけなのか、危機に乗じて行われる不当な退職勧奨なのかは通常は社員の側では判別できない。そして、いったん退職届にサインをしてしまうと、その後に企業の側の不当性に気づいたとしても、それを追求することはほぼ不可能になる。

また、無視できないのが、解雇予告手当と失業手当の問題だ。解雇であれば、企業は、社員に対し30日分の給与額に相当する解雇予告手当を支払わなければならないが、自主退職ではこれが支払われない。

加えて、解雇の場合は会社を辞めてからすぐに、それまでの平均給与額の50%から80%に相当する失業手当を受給することができるが、社員が自ら辞めた場合には自己都合退職とされて、退職後3か月は失業手当てが支給されない可能性がある。

このように、もし、勤め先から退職届へのサインを求められた場合にもすぐにサインをしないこと、そして、できれば弁護士や労働組合などに相談することをお勧めしたい。

私の法律事務所でも、「行列のできない電話相談所」と称して無料の電話相談を実施している。こちらもぜひ利用していただき、この状況を一緒に乗り切っていきましょう。