コラム

第8回 金融機関における合理的配慮を考える

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2015年11月号掲載

1.近年使いやすくなった金融機関

銀行などの金融機関は、ごく最近まで、私たち視覚障害者にとって、安全にお金を預けることのできる金庫であるとともに「バリアの宝庫」でもあった。

以前、銀行に預金を引き出しに行ったところ、窓口の営業時間が終わっており、ATMはタッチパネル式のものばかりで途方に暮れることもあったし、窓口で銀行員に代筆をお願いしたところ断られ、いい大人になってからも「おうちの人と一緒に来てくださいね」などと言われることも決して珍しくはなかった。読者の皆さんの中にも似たような経験をお持ちの方がいるのではないだろうか。

しかし、近年、このような金融機関の対応が変わってきた。今年7月に金融庁がホームページで公表した「障がい者等に配慮した取組みに関するアンケート調査の結果について」という資料はそれを如実に表している。

たとえば、全国に設置されたATMのうち、ハンドセットなどを使って視覚障害者にも使用可能な台数は、全体の約78%を占める。無人店舗も含めた全店舗のうち、視覚障害者対応のATMを設置している店舗は約73%である。これを都市銀行などの主要銀行に限ってみると、視覚障害者対応のATMの台数および設置店舗数は共に全体の約9割にも達する。

また規模の大小を問わず、店舗営業を行なっているほとんどすべての金融機関で、視覚障害者が窓口で口座の開設、預金の引き出し、振り込みなどの手続きを行なう際、銀行員による書類の代筆、代読を可能とする内部規定が整備されている。

確かに、銀行での応対変化について私自身も実感した。以前のように、銀行の窓口で「おうちの人と……」などと言われず、スムーズに銀行員の代筆、代読が受けられるようになった。

2.金融機関の変化の背景

このような金融機関の対応の改善は、日盲連など視覚障害者団体による長年にわたる粘り強い運動の成果であることは間違いない。このような運動を受け、2011年に金融庁が金融機関向けのガイドラインである「監督指針」を改正した。

新しい監督指針には、「障がい者等に配慮した金融サービスの提供」という項目が新設され、各金融機関は、視覚障害者にも使用可能なATMの設置を進めなければならないこと、視覚障害者が預金の預け入れや引き出し、住宅ローンなどの融資取引などを行なう際の代筆、代読の手続きに関する内部規定を整備する必要があることなどが定められている。この監督指針に従って各金融機関は設備やサービスの改善を図ってきたのである。

3.残された課題

このように、私たちにとって、金融機関は徐々にではあるが、使い勝手の良い金庫になってきたと言える。しかし未だ残された課題があることも忘れてはならない。ここでは、以下の2点を挙げたい。

まず、第1は、視覚障害者が金融機関に住宅ローンなどの融資を申し込む際のバリアが依然として高いことである。

上述の監督指針によれば、自ら署名などをすることができない視覚障害者が融資に関する手続を行なう際には、銀行員に代筆を依頼することはできない。視覚障害者は、自ら同行した「推定相続人」や「第三者保証提供者」に代筆させることが原則となっている。ここでいう「推定相続人」とは、その時点で自分が死亡したならば民法の規定によって相続人となる可能性のある人のことをいう。たとえば、配偶者や子ども、子どもがいない方の場合は両親、子どもも両親もいない方の場合には兄弟となる。また、「第三者保証提供者」とは、たとえば住宅ローンの連帯保証人などである。

では、親族や配偶者、保証人などに代筆を依頼できない、あるいは、何らかの事情で代筆を依頼したくないような場合にはどうすればよいのだろうか(一般的に、こういうケースは少なからずあるものだ)。監督指針では、そのような場合には、公証人制度の利用や弁護士の立ち会いを求めるなどの解決策を検討すべきと規定されている。

確かに、住宅ローンなどに関しては、お金を貸す側の銀行が借りる側の署名を代行することには問題がある。そのため、視覚障害者自らが契約書類などの内容を確認し、署名することができない場合、一定の視覚を有した第三者が、本人の意思を確認し、本人に代わって署名などを行なうことは有効な解決策である。問題は誰がその費用を負担するかである。

銀行での手続きに公証人や弁護士を利用する場合、手続きの種類にもよるが、少なくとも1件あたり数万円程度の費用がかかる。現在のところ、この費用は視覚障害者自身が負担しなければならない。

しかし、もし視覚障害がなければ自分で行なうことができたはずの手続きに、障害があることで余分な費用負担が生じるということは、やはり問題である。これは、文字の読み書きができることを前提に作られた社会のシステムの不備であり、国や地方自治体が費用を負担して解消するべきバリアであるように思う。具体的には、障害者総合支援法の給付の一環として、障害者が、融資契約などを締結するに際して弁護士等の専門職の援助を受けた場合、その費用を国や地方自治体が負担するという制度が整備されるべきである。

第2の問題点は、各金融機関のインターネットバンキングに関する視覚障害者への配慮が立ち遅れていることである。前期調査結果によれば、読み上げソフト等に対応したネットバンキングのサービスを提供しているのは、同サービスを行なっている1308の金融機関のうち、驚くことにわずか27の金融機関にとどまっている。

健常者が使えるサービスは、原則的に全て、余分な費用負担がなく視覚障害者にも使えるようにすることが、いわゆる障害の社会モデルの帰結である。障害者差別解消法施行を機に、もう一度、視覚障害者の生活を阻む社会のシステムについて考え、その典型的な場面である金融機関の問題を考え直すタイミングに来ている。