コラム

マイナンバー制度について

共生社会の足音

弁護士 大胡田 誠

月刊『視覚障害』2015年12月号

1.はじめに

本年10月からマイナンバー制度(社会保障・税番号制度)が始まった。読者の皆さんのお宅にも、封筒の表面に点字で「マイナンバーカードのお知らせ」と記載された郵便物が届けられたと思う。しかし、番号通知が始まっても、依然として、「マイナンバー制度ってなに?」などという声をよく耳にする。

そこで、今回はマイナンバー制度について解説したい。

2.マイナンバー制度の概要

マイナンバー制度の「マイナンバー」とは、文字通り個人につけられる番号のことである。日本国内に住む人(住民票のある人)全員に、一人ひとり異なる12桁の番号が割り当てられる。この番号は途中で変わることがなく、原則、一生使い続ける。

行政機関が把握している私たちの個人情報(住所、収入、税額、生活保護の受給状況など)は、それぞれ、別機関が管理している。マイナンバーは、国の行政機関や地方公共団体での各種手続き等において、各機関が管理するこれらの個人情報の結びつけが必要な場合に、同一人物の情報確認をスムーズに行なうために使われる。例えば、国の機関である税務署に対して確定申告をすると、住んでいる市区町村からその申告所得に応じた住民税の納付を求められる。これは税務署と市区町村の間で所得情報の連携がされているからである。現在、氏名をキーに同一人物の確認が行なわれていると思われるが、同姓同名の場合もあり、住所や生年月日などの別情報を結びつけて確認する必要がある。マイナンバー制度が始まると、マイナンバーによって個人が特定できるので、情報のやり取りがスムーズになる。

各行政機関の保有する所得情報の連携がスムーズになると、例えば、ある会社から提出された書類には報酬を支払った記録があるのに、もらった側からは所得として申告されていないなどの照合が容易になり、所得を隠して脱税しようとしている人を把握しやすくなる。同様に所得を隠して生活保護などの給付を受けようとしている人がいた場合、それを把握し、本当に困っている人に支援が行き渡るようにすることもできるようになるといわれている。つまり、マイナンバー制度は行政機関等の業務効率を向上させ、不正防止につなげることが目的なのだ。

これから、私たちがマイナンバーを伝える必要がある場面としては、次のようなものが想定される。

例えば会社員であれば、勤務先に、給与からの税の源泉徴収のためにマイナンバーを伝えることになる。勤務先はその番号をつけた源泉徴収票を税務当局に提出する。また、所得税の確定申告の際には税務署に、障害者総合支援法に基づいてホームヘルパーや同行援護の利用を申請する際には市区町村の窓口にマイナンバーを伝える必要がある。

読者の皆さんのお手元に届いているのは「通知カード」で、紙製のいわば仮のカードである。墨字では、表面の最上部に12桁の番号が記されており、これが自分のマイナンバーである。

通知カードの下に、切り取って使える「マイナンバーカード」の取得申請書がついている。これに必要事項を記入し、顔写真を貼り、通知カードに同封された返信用封筒で送ると、来年1月以降、身分証明書としても使うことのできるプラスティック製のマイナンバーカードが交付される。マイナンバーカードの取得は任意だが、マイナンバーを利用する時は、併せて必ず本人確認書類を提示することが必要となるため、本人確認書類としても使える1枚2役のマイナンバーカードを持っていた方が便利だ。マイナンバーカードの申請書には、カードに氏名を点字で記載するかどうかを希望するチェック欄がある。点字表示を希望する場合にはここにチェックを入れる。

2016年になり、マイナンバーカードの交付準備ができると、市区町村からハガキが届くので、通知カードと本人確認書類を持って窓口に取りに行くことになる。

3.私たちが気をつけなければいけないこと

現在の制度では、単に他人のマイナンバーを知っているだけでは、民間人はその人のいかなる個人情報にもアクセスすることはできないし、本人になりすまして手続を行なうこともできないので、何らかの原因でマイナンバーの情報が漏れたとしてもそれが悪用されて被害が出ることはあまり想定できない。

しかし、今後、マイナンバーカードが免許証やパスポートなどと同等に身分証明に活用されると、マイナンバーそのものより、カードそのものが盗用される危険性が出てくる。

例えば、マイナンバーカードの顔写真欄に偽の顔写真を貼ることで、カードの信頼性を悪用して、本人になりすました不正な住民票の入手や書き換え、印鑑登録の変更、婚姻届や死亡届などの行政手続きが行なわれる可能性がある。

2017年以降、国民一人ひとりにマイナポータル(情報提供等記録開示システム)というホームページが作られ、そこで行政機関が把握している個人情報の内容確認ができ、誰がいつ自分の情報を閲覧したかをチェックできるようになる。このホームページへのログインは、カードリーダーにマイナンバーカードに埋め込まれたICチップの情報を読み取らせ、パスワードを入力する、という方法が想定されている。そのため、マイナンバーカードが盗用されると、不正アクセスによりマイナポータル経由でプライバシー性の高い個人情報にアクセスされる恐れもあるので、カード管理には細心の注意が必要となる。

4.終わりに

現在の制度では、マイナンバーは、法律や条令で定められた利用目的に限り、行政機関内部で個人情報をやりとりするために用いられることになっている。そのため、私たちの日常生活には、利便性という意味でも、危険性という意味でも、さほど大きな変化をもたらすものではない。ただし、将来的にはマイナンバーの利用拡大が視野に入れられており、カルテや診療報酬などの医療情報との連携、戸籍事務やパスポート事務、自動車登録への活用が検討され、2018年からは銀行の預金口座への紐付け(任意)が決まっている。

活用範囲が広がれば利便性は高まるが、反面、悪用された時のリスクも高まる。今後マイナンバーがどこまで拡大され、その利便性と危険性はどの程度あるのか。注視する必要がある。